小太り体形の 健康・長生き術

無理にやせず体調管理
運動不足は厳禁
“やせすぎ”高リスク

 メタボリック症候群の登場でおなか周りを気にする中高年が増えた。太りすぎは心筋梗塞(こうそくなどの発症リスクを高くするが、肥満に対してあまり神経質になる必要もない。住民を長期間にわたって追跡調査した研究では「小太りの方が長生きする」という結果も出ている。
 
  「ウエストは88センチメートル。このくらいがちょうどいい」。こう話すのは『がんばらない』などの著書がある諏訪中央病院(長野県茅野市)の鎌田実名誉院長。現在、身長170センチメートルで体重72キログラム前後。ウエストはメタボリック症候群の基準値(男性85センチ)を3センチ上回る。肥満度を表すBMI(体重を身長の二乗で割った数値)も24−26をいったり来たりで、肥満(25以上)に該当する日もある。
 それでも鎌田医師は「ちょい太」状態を気にしていない。「数値を厳格に守ろうとまじめに考えすぎると、ストレスが高まり、病気になりやすくなる」と語る。
 「食べたいものを好きなだけ食べる」のが鎌田流。これを実践するため、@食べ過ぎたと思ったらそのあと少し節制するA空腹を防ぐため寒天を愛用するB夜食や間食は避けるC早歩きとゆっくり歩きを30メートルごとに繰り返す――などを心がけているという。

肥満の常識「待った」
 高カロリーの欧米スタイルの食事が世界中に浸透し、肥満は先進国だけでなく発展途上国でも健康を脅かす。高血圧症や糖尿病など様々な生活習慣病の元凶になるからだ。2年前に診断基準ができたメタボリック症候群も太っているようには見えなくても内臓に脂肪がついた中高年をあぶり出すという予防医学の考え方が根底にある。BMIも22が理想とされる。
 ただ、こうした「医学上の常識」に待ったをかけるような研究成果も出ている。
 厚生労働省の研究班(主任研究者・津金正一郎国立がんセンター予防研究部長)が秋田、岩手、長野、沖縄の4県で、40代、50代の男女約4万人を10年間、追跡調査した。男性で最も死亡率が低かったのはBMI「22−25未満」で、「25−27未満」が続いた。健康上理想とされてきた「19−23」未満に比べて成績が良かった。
 「19未満」のやせと「30以上」の極端な太りすぎは死亡率が高かった。女性では「19−25未満」で死亡率に大きな差はなかった。
 こうして結果を踏まえ鎌田医師は「太りすぎは健康によくないが、小太りは長生きできる」と力説する。例えば、BMIが27−28の人は一気にやせるのではなく「26を目標にすれば十分」とアドバイスする。

過食より運動不足
 「メタボリック症候群ではなく運動不足症候群と呼ぶべきだ」というのは富山大学和漢医薬学総合研究所の浜崎智仁教授だ。日本人に肥満が増えたのは車の普及による運動不足が主な原因だという。
 日本人の摂取エネルギー量は1日平均約2000キロカロリー弱。この30年でやや減少傾向にあり食べ過ぎてはいない。少しウエストが太いからといって食事を控えると、「健康に悪影響をもたらす可能性がある」(浜崎教授)。
 高齢者になると肉を控える人が増えるが、食が細くなってやせ過ぎると肺炎など感染症への抵抗力も弱まる。浜崎教授は「肉や魚、牛乳など動物性たんぱく質も含めてまんべんなく食べる。特に魚はお薦め」とアドバイスする。
 日ごろからこまめに体重計にのり、ウエストを測りながら、「太り過ぎず、やせ過ぎず」を目指してみるのはどうだろう。                     
(長谷川章)

ひとくちガイド
《本》
◆健康長寿をめざすヒントを得るなら
「ちょい太でだいじょうぶ」(鎌田実著、集英社)
◆コレステロールと病気との関係を検証
「コレステロールは高いほうが病気にならない」(浜崎智仁、KKベストセラーズベスト新書)

2007.11.11 記事提供 日経新聞