Lesson6

北海道・かもめ歯科院長 清水央雄

日本では喫煙と口腔疾患との関係はほとんど知られていないが、歯科界も取り組みの遅れも原因ではないだろうか。

歯周病や白板症、口腔癌、歯肉着色、口臭症、ANUG、齲蝕症等、多くの疾患において喫煙はリスクファクターであると報告がされている(1)

このため、口腔疾患の治療や予防上、喫煙者には禁煙を勧告することは非常に重要である。これは、高血圧患者や糖尿病患者に生活指導するのと同様の必須事項であり、日常的に行われなければならない。米国では30年以上前から歯科医院での禁煙指導は常識であり、日本でも早急に取り組まなければならない。
歯科医院において、「タバコをやめたいんですけど」と、自ら言う患者は少ないため、喫煙と関係する疾患の患者には歯科医師から患者へ積極的に禁煙を勧めなければならない。禁煙歴が12年で1日に15本喫煙している30歳女性だが、歯肉は黒く色素沈着しているし、口唇も黒く、かつ、カサカサしていて、大きな審美障害となっている。この原因がタバコであると自覚する患者は、ほとんど皆無といってよく、歯科医師が指摘する必要がある。

喫煙は美容の大敵であることや、口臭の原因であること、早期の歯牙喪失をおこし、入歯を入れることになること、などを説明することのできる歯科医院は、禁煙の動機づけを高めることのできる重要な医療機関であり、その役割を歯科医療従事者は果たさなければならない。

患者の喫煙の有無は、初診時の問診表で問うと良い。
禁煙する気の全くない患者にいきなり禁煙を強要しても、禁煙できる確立は極めて低く、むしろ逆効果だと言われている(2)

患者の喫煙ステージ分類をし、ステージに合った指導を行う必要がある(表1)
「分かっちゃいるけどやめられない」と、喫煙者は思いがちであるが、喫煙者には思い込みや誤解があり、正しい知識に欠けるのが実情であり、誤解を解き、正しい知識を提供するのが医師の重要な役割である。

1.ストレス解消はウソ
タバコはストレス解消になる優れ物だ、と思い込んでいる。禁煙すると、楽しみが減ってしまうと考えている。
実際はタバコは依存症があり、喫煙渇望感を解消してすっきりするだけで、禁煙してしまえば喫煙渇望によるストレスは発生しない。

2.自己流は禁煙成功率が低い

禁煙しやすい手順・方法が考えられており、その行動科学的アプローチに従うと禁煙成功率が高いことを説明する。
やめられないのは意志が弱いから、という根性論では失敗しやすい。

3.禁煙は1回できめないといけない?
Prochaskaの報告によると、1回の禁煙の試みで生涯禁煙者になるのはまれで、7〜10年の期間をかけて平均3〜4回の禁煙の試みを経て生涯禁煙者になる。1回で禁煙しないといけないと考えていたら、失敗した時の挫折感が強く、再び禁煙に挑戦するのを諦めることが多いため、失敗してもがっかりせず、何度も挑戦するように言う。
節煙を勧めるのは大きな間違いである。

喫煙本数を減らしても、体はそれまで摂取していたニコチン量を要求し、無意識のうちに煙を深く肺に吸い込む、あるいは吸い込んでからしばらく呼吸を止めるなど、代償性喫煙パターン変化が起こり、血中ニコチン濃度や、CO-Hb量は逆に増加する報告がされている(3)

また、同様に軽いタバコに替えても血中CO-Hb量は、逆に増加する報告もある(4)

「禁煙が難しければ節煙しましょう」「禁煙はストレスになるから、1日5本くらいはいいですよ」などと間違った指導が散見される。

1日30本以上喫煙する場合、20本まで減らしてから、一気に禁煙する方法であれば問題ないが、20本→15本→10本→5本→禁煙という方法は離脱症状が強くて苦しいだけで、結局禁煙は成功しないし、節煙だけでこんなに苦しいなら、まして禁煙はできっこない、と考えてしまうので逆効果である。
1回の禁煙教室には30分〜40分くらいかけるのが普通である。料金設定は個人指導では高くなるため、数名の集団指導にし、3,000〜4,000円程度をいただく施設が多い。

視覚に訴えるスライド、冊子、ポスター等を活用してタバコの害作用を説明するといい。

また、スモーカーライザーなどで呼気中CO濃度を測定すると、禁煙後に呼気中CO濃度の低下を数字で示すことができ、禁煙意欲の向上に役立つ。
表1
無関心期
(6ヵ月以内に禁煙しようと考えていない)

無関心期では、自分の喫煙行動に様々な理屈をつけて正当化しているので、すぐに考えを方向転換させるのは困難である。いくら医師が「禁煙するのは当然のこと」と考えても、本人は喫煙に対して問題意識をほとんど持っていないため、唐突に禁煙を迫っても逆効果である。「タバコは今の病気にあまりよくないのですが、禁煙しようと考えたことはないですか?」と、さり気なく言い、もしも禁煙に興味を示したら、禁煙の支援ができることなどを説明し、禁煙に興味を示さないのなら、深入りせず、次回来院の機会に「前回は禁煙にご興味がなかったように感じましたが、まだ関心はお持ちになってないですか?」と、いうように徐々に禁煙に興味を持つように話を進めていく。
肺癌になるとか、心臓病になるなどの話よりも、禁煙すると咳や痰がなくなる、口臭がなくなる、歯が長持ちするし歯や歯肉がきれいになるなど、禁煙のメリットを中心に話すとよい。
関心期
(6ヵ月以内に禁煙しようと考えている)
喫煙のデメリット、禁煙のメリットに目を向け始めている時期であるが、禁煙が困難だと考えていたり、タバコのない世界の不安感などを感じていて、禁煙に踏み切れない段階。
リーフレットなどを活用し、喫煙の害を説明したり、スモーカーライザーなどで呼気中CO濃度を測定すると動機づけに役立つ。また、効率的な禁煙プログラムがあることも説明し、禁煙は難しくないことを理解させると、さらに動機づけが高まる。
準備期
(1ヶ月以内に禁煙しようと考えている)
禁煙開始日の設定の相談をし、禁煙開始後の注意点などを詳しく説明する。希望者にはニコチン離脱症状を緩和させるニコチンガムやニコチンパッチなどの製剤を処方する。
参考文献
(1) Ismail, A,I., Burt, B.A., Eklund, S.A.: Epidemiologic patterns of smoking and periodontal disease in the States, J.A.D.A., 106 : 617-621,1983.
(2) 歯科診療室における禁煙指導 埴岡隆 歯界展望 Vol. 94 No.5 1999 ; 1112-1123
(3) Ho-yen Do, Spenc VA, Mordy JP, and Walker WF. Why smoke fewer cigarettes? British Medical Journal 1982 ; 284 : 1905-1907.
(4) Benowitz NL, Kuyt F, Jacob P. Circadian blood nicotine concentrations during cigarette smoking. Clinical pharmacology and therapeutics 1982 ; 32 (6) : 758-764

〈禁煙指導の書籍・リーフレット〉
1.禁煙指導の本 高橋裕子 保健同人社 \2,800
2.タバコをやめよう歯医者さんからのメッセ−ジ
  石井正敏 砂書房 \4,800
3.禁煙外来 阿部眞弓 芳賀書店 \1,600
4.禁煙支援ハンドブック 高橋裕子 じほう \1,600
5.やめられないタバコをやめる方法 川島淳子 保健同人社 \100

〈禁煙指導に関する主なホームページ〉

禁煙医師連盟
http://www.nosmoke-med.org/
まゆみ先生の禁煙外来
http://www.venus.dti.ne.jp/~drmayumi/
Dr. Pinkの禁煙指導のすすめ
http://www.ahk.gr.jp/~pink/

しみず なかお
1959年北海道生まれ。1984年日本歯科大学新潟歯学部卒。1991年〜かもめ歯科院長。著書=口腔漢方ハンドブック(たにぐち書店)

月刊保団連 2001/3 No698