Lesson26 


喫煙加わると高リスク

いつの世にも酒好きな人は多い。「酒は百薬の長」とは、そういう人たちの言い訳だろうか。大量飲酒でがんだけでなく様々な病気のリスクが上昇することは疑いない。2003年の世界保健機関(WHO)の評価では口腔(こうくう)、咽頭(いんとう)、喉頭(こうとう)、食道、肝臓、乳房のがんのリスクを上げることは確実と判定した。

地域住民約10万人を約10年追跡調査したわれわれのデータから、今回は飲酒とがんについての結果をみてみよう。この研究では、飲酒量は酒の種類によって分けておらず、すべてエタノール換算。前回と同様、日本酒一合と記すが、これは焼酎0.6合、泡盛0.5合、ビール大瓶1本、ワインはグラス2杯、ウイスキーはダブル1杯に相当する。
女性の参加者には大量飲酒者が少なく、飲酒量ごとの差を出すのが難しい。紹介するのはすべて男性の結果だ。

胃がんでは、飲酒量との関連はみられなかった。大腸がんリスクは、1日1合以上飲むグループから高くなっていった。2合以上だと、飲まないグループの2.1倍、男性の大腸がんの約4分の1は1合以上の飲酒によるものという計算になった。喫煙が加わるとリスクは3倍になった。

がん全体の発生リスクは、時々飲むグループと比べ、1日2合以上のグループから統計的に意味のあるリスク上昇が認められた。2合以上で1.4倍、3合以上では1.6倍。男性のがん約13%は、1日2合以上の飲酒によるものという計算になった。

注意すべきは、たばこを吸う人だと1日1合未満の飲酒でもリスクは上がり始め、3合以上では2.3倍となった点だ。体内のアルコールを分解する際に活発になる酵素が、たばこ煙中の発がん物質を同時に活性化するためではないかと考えている。お酒を飲むときは、他人のたばこの煙も避けた方が良さそうだ。

飲酒は、がんの「予防薬」にはなりそうもない。ただ、救いは、たばこを吸わない人にとっては、がん全体のリスクには大きくかかわりそうもないことだ。
(国立がんセンター予防研究部長  津金 昌一郎)


日本経済新聞 2005.8.14