Lesson178


禁煙外来、鳥取で高い成功率


鳥取・禁煙外来、高い成功率 
脱「たばこがないと楽しめない体」へ

◇年16万円浮く、妻が喜ぶ…「やめて後悔する人はいません」
 たばこが10月1日から値上げされる。セブンスターは1箱440円(現在300円)、マイルドセブンは410円(同)。高い!。禁煙に踏み切ろうという人も少なくないだろう。喫煙歴8年でヨメから再三禁煙を命じられた記者が、高い成功率を誇る「禁煙外来」を受診した。毎日新聞地域面「ご近所のお医者さん」の執筆者でもある安陪内科医院(鳥取市吉方温泉3)の安陪隆明院長に診てもらった。【遠藤浩二】

 「なぜ禁煙をしようと思いますか」。診察は動機を聞くところから始まった。「値上げになると小遣いが厳しいからです」。電卓を手に「一日どれくらい吸いますか」と安陪院長。「1箱です」。「160600」という数字がはじき出された。
 安陪院長は、パソコンのキーボードをたたきながら聞き取りを進める。たばこをやめたら年16万円浮く▽1歳の息子のたばこ誤飲の心配が減る▽妻が喜んでくれる。記者の動機を個条書きに打ち込んでプリント。名刺大のカードが出来上がった。
「これをいつも携帯してください」。動機を明確にし、吸いたくなったら思い返すことが効果的という。

 ニコチンのメカニズムの説明に移った。「たばこを吸ってほっとする感情はどこで作られますか」。「脳ですかね」。「その通りです」。脳の断面図が画面に映し出される。
 脳は、体にいい情報が入るとアセチルコリン受容体が刺激され、快楽物質のドーパミンが放出される。ニコチンはアセチルコリンと構造が似ており、たばこを吸うと受容体が反応してしまう。何もいいことがないのにニコチンによってドーパミンが出ることで脳の機能低下を引き起こしてしまうという。
 安陪院長は例え話をした。「奥さんが小説を書いてベストセラーになり、1000万円の印税が入ってきたら今まで通り仕事を一生懸命やりますか」。「いや、さぼります」。「そうでしょう。ニコチンで簡単にドーパミンが出てしまうので、脳はさぼってしまっているのです」
禁煙開始から2、3週間で脳の機能は回復するが、一本でも吸うと元に戻ってしまうという。

 脳の機能低下に加え、たばこがないと快楽を得られない体にもなっているらしい。「たばこを吸う場面を考えてみてください」と安陪院長。寝起き▽食後▽仕事が一段落した時▽酒を飲んでいる時……。いずれもストレスがかかっていない時だ。ストレスがないのにたばことセットでないと満たされない体になってしまっている!!とのことだ。
 「南国のビーチが目の前に広がっているとします。それだけで癒やされませんか。喫煙者は、そこでたばこを吸いたくなってしまいます」。んー、おっしゃる通り。

 治療の説明に入った。治療期間8週間のニコチンパッチか、12週間の飲み薬かを選べる。たばこの代わりに少量のニコチンを摂取するものだ。治療方法を決めたら開始日を決めて初診は終了。その後、2〜4週間のペースで再診し、禁煙状況に応じたアドバイスを受ける。
 禁煙治療は保険適用される。条件は4項目。うち3項目は禁煙する気のある人ならクリアできる。問題は、1日の喫煙本数と喫煙年数を掛けた「ブリンクマン指数」。「200以上」が条件。記者は20本×8の160。保険がみてくれるほどの病人ではないらしい。保険適用なら患者は3割負担。パッチは1万2000円ほど、飲み薬は1万8000円ほどとなる。適用外なら4万円、6万円だ。

 安陪内科医院は成功率9割を誇る。安陪院長は「たばこをやめたらいいことがたくさんあります。やめて後悔する人は一人もいません。禁煙を考えてみましょう」と笑顔で送り出してくれた。
 取材後、たばこに手が伸びたが「脳の機能低下」「たばこがないと楽しめない体」という言葉が頭をよぎり、火をつけるのをやめた。

(2010年9月18日 提供:毎日新聞社)