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ブラキシズムと胃液の関係

歯ぎしりはGERDが原因?

起床時にあごの筋肉が痛んだり、一緒に寝る人に迷惑をかけてしまう歯ぎしり。実はこれも、胃食道逆流症(GERD)の症状の一つかもしれない。ブラキシズム(無意識下の歯ぎしりや歯を連続的にカチカチとかみ合わせる運動の総称)とGERDの関連を研究している鹿児島大歯学部矯正歯科教授の宮脇正一氏は、歯科と消化器科の意外な関連を指摘する。


宮脇氏が実際に経験した症例を紹介しよう。

咬合不全のため、矯正歯科を受診した10歳代の女性。検査で上下顎犬歯、小臼歯、大臼歯に重度の咬耗を認めた。ブラキシズムを疑い問診を続けると、朝起きたときに顎の咀嚼筋が痛むといった、自覚症状があることも判明した。家族からも、就寝時に歯ぎしりや歯をかみ合わせる音を立てているという指摘を受けていた。

一方で、患者は数年間にわたって、胃のむかつきや胸焼けの症状を自覚していた。ここからGERDを疑い、消化器内科に紹介。GERDと診断を下され、プロトンポンプ阻害薬(PPI)を2週間投与された結果、胃のむかつきや胸焼けなどの消化器症状は軽快した。

矯正歯科の再診時に宮脇氏が問診をしたところ、患者は起床時の咀嚼筋痛をほとんど感じなくなったと話した。家族からの夜間ブラキシズムの指摘も、これまでは毎日だったものが、週1〜2回の頻度へと減少した。

前回の受診後に、GERDとブラキシズムの関連を調べるため、ビデオカメラを寝室に設置してもらい、映像、音声からブラキシズムの回数を計測したところ、PPI投与前の9.1回/時から、PPI投与後は2.6回/時に減少していた(出典:今井ほか 2005年日本矯正歯科学会学術大会にて発表)。

酸の逆流に合わせてブラキシズムが発生

GERDを治療することによって、ブラキシズムも軽減した──。この意外な現象を裏付けるように、宮脇氏が行った健常者とブラキシズム患者を比較した試験でも、夜間の酸の逆流とブラキシズムが密接に関連していることが示されている。

対象は、健常者とブラキシズム患者それぞれ10人。筋電位計で夜間のリズミカルな咀嚼筋の活動を検出し数えたところ、健常者が平均2.4回/時だったのに対し、ブラキシズム患者は6.7回/時と多いことが確認できた。

そこで、食道内pHが低下した回数を24時間pHモニターで調べると、pH<5.0となった回数は、健常者が平均0.1回/時だったのに対し、ブラキシズム患者は3.6回/時と多かった。

ブラキシズム患者は、pH<4.0となった回数も平均0.5回/時(健常者0.0回)、pH<3.0となった回数も平均0.1回/時(健常者0.0回)と多く、健常者より有意に高頻度に食道内への酸逆流が起きていることが分かった。さらに、酸の逆流によって食道内pHが低下した時間帯は、咀嚼筋活動が活発な時間帯と重なっていた(図1)。

図1ブラキと胃液分泌


図1 酸の逆流と側頭筋活動の関連 食道に酸が逆流し、食道内のpHが低下した時間に合わせて、側頭筋が活発になっている(出典:Miyawaki S, et al. Sleep 2003;26:888-92.)。

さらに宮脇氏らは、両群にPPIを1日だけ、夕方に10mg投与することで、ブラキシズムが減少するかどうかの検討を行った。プラセボを投与した日と比べると、PPI投与日の夜の咀嚼筋活動の回数は、ブラキシズム患者が6.0回/時から3.7回/時に、健常者でも1.9回/時から1.0回/時と有意に減少した。

GERDの原因の一つに咬合不全

冒頭の患者は、宮脇氏がブラキシズムとGERDの関連を研究している折にちょうど来院したという。「問診でGERDが疑われたので、実際にGERDの治療でブラキシズムが減少するかを調べたら、予想通りの結果が得られた」と宮脇氏。

ブラキシズムの発生原因は、未だにほとんど解明されていない。だが宮脇氏は、「ブラキシズムにも何らかの生理的意義があるのではないか。一つの仮説だが、咀嚼筋活動をすることによって唾液を分泌し、それを飲み込むことでGERDの症状を和らげようとしているのでは」と考えている。

歯ぎしりだけを訴えて歯科を受診する患者は少ないとはいえ、「発生原因が解明されることによって、これまでマウスピースなどの対症療法しかなかったところから、治療の選択肢が広がる」と宮脇氏は期待する。

また、宮脇氏は、ブラキシズムとは直接関係ないものの、受け口のため咬合不全となっている患者の方が、健常者よりもGERD問診表(QUEST、Fスケール)の点数が高いという結果もまとめている。「咬合不全があると、食べ物が口で細かくならないまま胃に入り、より多くの負担をかけるため、GERDのような消化器症状が出やすくなるのではないか」(同氏)。

「歯科と消化器科には密接な関連がある」と考える宮脇氏は、現在、咬合不全で来院した患者全員にGERD問診表を用いた検査を行い、必要があれば消化器内科を紹介しているという。
江本 哲朗

 

2009.1.7 記事提供 日経メディカル