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直接覆髄996、部分断髄(2-3 mm切断)199、
生活(全部)断髄190)についてまとめて分析した

 深在性う蝕の治療において窩底軟化象牙質の除去は、露髄のリスクを避けるため、完全除去より部分除去のほうが無難であることを記した。また、う蝕除去時に露髄してしまった症例に関し、直接覆髄処置と部分断髄処置(1-1.5mm歯髄切断)を行った時の両群それぞれの1年成功率が32?と35?であったという2010年のEur J Oral Sciのことも紹介したが、露髄後のこうした治療の成績がこれほどひどいとは・・・。これは例外的ではないか、ほかでの成績はどのようになっているのか気になった。そこで文献を探したところ、“う蝕で露髄した生活永久歯の生活歯髄治療のシステマティックレビュー”(J Endod 37巻5号、2011)という、目を通すのにちょうど適当そうな、比較的新しいレビューが見つかった。

それは、今回のシステマティックレビューの諸基準に適合する1971〜2010年5月の23論文を選び出し、合計1,385歯(直接覆髄996、部分断髄(2-3 mm切断)199、生活(全部)断髄190)についてまとめて分析したものである(なお、上記のEur J Oral Sciは6月号のため対象外)。追跡期間1〜10年、全体の成功率72.9-99.4?としている。このレビューの概要を表1にまとめたが、断髄処置にくらべ直接覆髄の成績はやや落ち、またその追跡期間が長くなると低下する傾向にあるらしい。ただし、3年以上のデータの中には成功率38?という極端に低いものがあることに留意する必要もあるのではないかと思う。

直接覆髄996、部分断髄(2-3 mm切断)199、生活(全部)断髄190)についてまとめて分析した図1

そこで、別の文献も探してみたところ、レビューではないが、直接覆髄の過去の成績をまとめた表が2010年の一般論文の中に見つかった。その中から、5年以上追跡のデータを抜粋してまとめたのが表2である。これをざっと眺めると、長期になると成績が落ちるということもなさそうな気がしてくる。これを見ると、最近にくらべ昔のほうが何となく成績がよさそうなのはなぜであろう。

直接覆髄996、部分断髄(2-3 mm切断)199、生活(全部)断髄190)についてまとめて分析した図2

近年、水酸化カルシウムに代わり、MTA(硬化時に水酸化カルシウムを生成する水硬性セメント)が一部で使われるようになっているが、生活歯髄処置における両者の比較をレビューから抜粋してまとめたのが表3である。断髄処置では両者で差はなさそうであるが、直接覆髄では水酸化カルシウムはやや落ちるようである。

直接覆髄996、部分断髄(2-3 mm切断)199、生活(全部)断髄190)についてまとめて分析した図3

もう少し詳しい比較を一般論文から抜粋したのが表4である。この論文では12項目について分析しているが、ここでは4項目だけ表にしてある。データ数が少ないのが難点であるが、一応参考にはなるであろう。追跡期間が長くなってもMTAでは成功率は変わらないが、水酸化カルシウムでは落ちる傾向にある。露髄の種類の影響では、機械的よりもう蝕の方が好成績の傾向になっているのは意外な気がする。歯冠部の修復状態は成績に大きく影響するとされているが、この点ではMTAと水酸化カルシウムであまり違わないように見える。表1の直接覆髄の分析対象年齢は6-10歳となっているが、表4ではさらに幅広い年齢層となっている。年齢の影響ははっきりとはしないが、50歳以下であればそれなりの成功率を期待してもよさそうである。

なお、水酸化カルシウムペーストで直接覆髄した16-72歳の患者の248歯について0.4-16.6年(平均6.1年)追跡した論文(表2)によれば、16-20歳の成績が最もよく、60歳以上では40歳以下にくらべ成績が低下するという。これまで、直接覆髄の対象は小児というのが大方の見解であったようであるが、どうもそれは必ずしも妥当ではなさそうな気がする。さらにその論文には、アマルガムやコンポジットレジンでの修復にくらべ、グラスアイオノマーセメント修復は成績不良であったという記載もある。

直接覆髄996、部分断髄(2-3 mm切断)199、生活(全部)断髄190)についてまとめて分析した図4

生活歯髄処置の1年成功率が30?台というのは心配であったが、今回調べた結果からいえば、どうもそれは例外的らしいということで取りあえず安心した。しかし、成績にかなりの差があるのはどうしたわけだろうか。直接覆髄を成功に導くカギは、歯冠部歯質の十分な封鎖にあることはかなり認識されていると思う。成績不良はそれができていなかったと考えるのが自然である。それにしても、信頼できる接着技術などなく、アマルガム修復しかなかった時代でも相当な好成績を上げている例があるのは驚きであった。

筆者のような患者としては、現在の歯の保存処置法には何となく不安がある。う蝕治療であれば、まずは、歯髄をできるだけ守れるように、露髄、抜髄につながりかねない無理な軟化象牙質の除去は行わず、歯冠部歯質を徹底的に封鎖する治療を望みたいと思う。露髄した場合には、断髄処置ではなく直接覆髄とし、さらに予後不良に陥る可能性のあるMTAを含む水酸化カルシウム系材料での覆髄は行わず、MMA-TBB レジンでの直接覆髄と歯冠部歯質の封鎖をお願いしたいところである。その理由については、また機会を改めて記したいと思う。

2012年12月10日 提供:今井庸司先生