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日本咀嚼学会主催:市民参加フォーラム
「健康は噛み応えから」会場は満員。

特定非営利法人日本咀嚼学会(理事長=山田好秋・新潟大学副学長)主催、(株)ロッテ特別協賛による、第18回咀嚼と健康ファミリーフォーラム「健康は噛み応えごたえから」が11月20日、東京・有楽町朝日ホールで開催された。会場は満員となり関心の高さを示した形になった。フォーラムは、4人の演者が健康、咀嚼、生活、食事、栄養などをキーワードに、それぞれの立場から、次の講演「"噛みごたえ"の進化学」加藤均氏(東京証券業健康保険組合総合診療所第二診療部長)、「高齢者の咀嚼機能と健康」池邉一典氏(阪大歯学部大学院講師)、「抗老化の食事法」廣田孝子氏(京都光華女子大教授)、「"噛んで""歌って""笑って""若返り"」河原英雄氏(大分県佐伯市・歯科河原英雄医院院長)を行なった。

冒頭、山田理事長が「健康を保つには、正しい方法で栄養を摂ることが重要です。口から取り込み、歯で噛み砕き、唾液と混ぜて飲み込むこと。これは、人間には、大きな意味があるのです。何気ない行為ですが、多くの筋肉が、脳が操ってできる行為なのです。本学会は、歯科医学、栄養学、食品学、調理学さらに介護、看護、医療、教育の現場で高齢者や子どもたちと接する職種と交えて研究しています。その結果を広く国民に知らせることを目的としています」と紹介した。

加藤氏は、自らの研究を踏まえて「臼歯の中で第一大臼歯だけには3000万年以上も前に、霊長類の祖先が獲得した食べ物を噛み砕くための特徴的な形態が現在まで維持され続けていて主機能部位とその部位が一致していたので、第一大臼歯が咀嚼の中心となって維持されてきた」と改めて強調した。また、池邉氏は、「口腔機能は、加齢とともに衰え、個人差も大きくなってきます。人によって舌や歯の感覚の鋭さ、唾液の出る量が段々違ってくるのです。このような変化は、視力や聴力のように、他人にわかりやすいものではなく、これまであまり注目されていませんでした。今後はこのような点を考慮した、患者の心理的な面も含めた研究が求められる」と今後の研究の視点を指摘した。

一方、栄養学的観点から、口腔・咀嚼に触れて廣田氏は、「咀嚼力は、食品の選択、調理法、食べる量などに影響を与えています。咀嚼が不十分な人は、十分に噛まないで飲み込んでしまうので、消化・吸収は良好とはなりません。その結果、栄養状態も良好とはならないのです」と栄養面でも咀嚼機能の重要性を述べた。

最後の講演をした河原氏は、歯科界が取組んでいる"8020運動"を説明した後、ジョージ・ワシントンの顔写真を見せ、"5701"という数字を示し、「ワシントンは67歳で死ぬのですが、57歳の時は、1本しか歯がなかったのです」と説明する中で、自分の歯の大切さ、あるいは歯を失っても補綴物を入れて噛むことが大切かを、要介護度4、あるいは認知症の患者のケースなどを、ビデオを使って紹介。

初診の際には、家族に支えられながら来院し、ユニットに座らせるにも苦労した患者であったが、保険で作製した義歯を装着して4ヶ月。自ら歩行し運転するまで、驚異的に回復した様子が映し出されると、会場から感嘆の声が聞かれる場面もあった。また、地元のカラオケ大会で認知症を患った母親とデュエットした息子が、「母親が、歌えるようになりました。健康になるのは、義歯を入れてよく噛みましょう。」と訴えていた映像が流れた。

河原氏は、話の中でユーモアを交え、「皆さん驚いていますが、私が一番驚きましたよ。初診の時は、内心『もう来ないだろうな』と思っていたのですから」とその回復ぶりに困惑した気持ちであったことを明らかにしていた。さらに「結果が芳しくない時もあります。また、医学的な対応も必要であり重要だと思います。残念ながら、患者の多くは、義歯を使ってくれません。私の患者に22個の義歯を持っている人がいます。現在の制度上、仕方ないのですが、半年毎に新しい義歯を作るのですね」と臨床現場の課題も示唆していた。座長を務めた、小林義典・日本咀嚼学会前理事長(日歯大名誉教授)の、演者の内容を参加者にわかりやすく補足説明・解説した。

その後の会場からの質問を受けたが、「河原先生の話に驚いています。現在、私は80万円で義歯を作っているのですが、保険で作っているということで、先生に作ってもらいたくなりました(笑)。でも、しっかり保険料を払っているのですから保険でお願いしたいのですが、ほかの先生は保険でできないのですか。何か違うのですか」と歯科界にとって悩ましい内容の質問が出されました。「できる歯医者はいるはずです。でも、正直いうと、今の保険点数では、赤字になるので歯医者さんは、したくありません。だから、もっと評価してほしい、上げてほしいのが本音です」と指摘した。

その上で、「義歯を入れて、噛んで唾液を出すことで、大きな効果があることが学会などで発表されています。歯医者だけが頑張るのではなく患者さんと一緒に頑張ること、これが大事です。"噛んで""歌って""笑って""若返り"ましょう」と回答すると会場から拍手が起きたが、噛むことの重要性を再認識したフォーラムであった。

2012年11月22日 提供:取材 奥村 勝 氏