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カウンセリング、問診 退室前の魔法の言葉=岡本左和子 
診察室のワルツ/16


 昨年の東日本大震災で、被災された方々の礼儀正しさや助け合いの姿勢など「日本人の誇り」に触れ、新しい年を迎えました。今回は、新年からすぐにでも病院で試していただきたい「魔法の言葉」を紹介したいと思います。掃除や事務の担当者から病院長まで、病院の誰もが病室での用事が終わって退室するとき、「他に私が今できることはありますか?」と、患者に声をかけてみてください。

 「メガネが遠くて手が届かないけれど、そんなことでナースコールはできない」「布団の裾を直してほしい」「点滴の針がちょっと痛い」。小さなことですが、言わないで我慢する患者には、大きなストレスになります。フラストレーションがたまると、攻撃的な言動にもつながります。

 それだけではなく、メガネを取ろうと無理に手を伸ばしてベッドから転倒したり、点滴の針が痛いのを我慢して点滴液の漏れに気づかないなど、危険なケースもあります。治療とは別に、医療者からのあいさつや日常の声かけは、病気と、それを抱えた生活に大きな不安を持つ患者には、このうえない助けや安心につながります。医療者に話しかけにくいと感じている患者に「話すこと」を期待するより、医療者から「何かお手伝いできますか」と言葉をかけることで、患者も話しやすくなります。

 米国のある病院では、医師や看護師をはじめ、職員全員が「他に何か今できることは?」と退室前に声をかけるようになってから、患者の転落・転倒や、ナースコールの数が激減したといいます。また、職員から声をかけるようになって、患者が気持ちをためこむことが少なくなったようで、感情むき出しの苦情も減ったそうです。別の病院や大学病院でも、病室から医師や看護師の働く姿が見えるようにしたり、巡回以外に看護師が廊下を歩く回数を増やすことによって、似たような効果があったという報告もあります。

 患者の医療参加を促し、治療がうまくいくように両者が助け合い、互いの礼儀を忘れない関係が大切です。「言いにくい」と感じる患者を勇気づける方法はたくさんありますが、まずはこの言葉から始めてみてはどうでしょうか。(おかもと・さわこ=医療コミュニケーション研究者)

 

2012年1月11日 提供:毎日新聞社