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抗血栓薬を投与されている方の抜歯

脳・心筋梗塞後の抜歯=山根源之 口福学入門/8

口福学入門:/8 脳・心筋梗塞後の抜歯=山根源之

 

 いつも服用する薬剤によって、口腔(こうくう)に問題が起こることは珍しくありません。前回の本コラムでは、ビスフォスフォネート製剤と顎(あご)の骨の壊死(えし)や骨髄炎とのかかわりを紹介しました。ほかにも、血圧を下げるためによく使われているニフェジピン(アダラート)を服用していると、歯肉が腫れる場合があります。腫れ防止には、服薬中も歯磨きを続け、口腔を清潔に保つことが有効です。また、睡眠薬や精神安定薬の服用で、口腔の乾燥がひどくなり、粘膜痛が出たり食事や会話がしにくくなることもあります。

 最近の大きな問題は、抗血栓療法を受けている方の歯科治療でしょう。脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞の後は、病気の再発を防ぐために血管内の血液が凝固しないよう抗血栓薬を投与されています。代表的な抗血栓薬には、抗凝固薬のワルファリン(ワーファリンなど)と抗血小板薬のアスピリン(バイアスピリンなど)があり、抜歯の機会が多い高齢者を中心に多くが服用しています。特にワルファリンを飲んでいる方は、抜歯時になかなか血が止まりません。口の中が血だらけになると不安で、眠れなかったり食事ができなくなったりします。従来は歯科医師が医師に相談し、抜歯時にワルファリンを休薬することが一般的でした。ワルファリンを休薬すると抜歯後に血が止まるかどうかの心配はありませんが、脳梗塞や心筋梗塞の再発の危険があります。再発すると、休薬前よりも重篤になり、寝たきりや死を招く恐れがあります。

 そこで、関連する歯科の学会と医科の学会が協力して10年に、「抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン」を作成しました。それによれば、ワルファリン投与量は定期的に検査を行い、薬の効き具合をみて決めます。抜歯の際も直近の検査値をみて、適当な範囲内にある場合に抜歯することが推奨されています。そうすれば薬をやめなくても血が止まり、かつ梗塞再発の危険性も低いのです。より安全に対応するため、抜歯直前に指先から採血して検査値を出せる簡便な検査器を歯科では活用しています。

 納豆やクロレラは、ワルファリンの作用を増強するので、ご注意ください。(やまね・げんゆき=東京歯科大名誉教授)=次回は24日掲載

2011年10月10日 提供:毎日新聞社