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上気道への抗菌薬の効果、その後の抑制効果は?

抗菌薬は上気道感染後の重症合併症を減らせず
高齢者の胸部感染後の肺炎予防には有用!!

抗菌薬の投与が呼吸器感染症後の重症合併症リスクを低減させるかどうかを調べた結果、上気道感染、喉の痛み、中耳炎後の重症合併症リスク低減を支持するエビデンスは得られなかったものの、高齢者の胸部感染後の肺炎リスクについては抗菌薬投与でリスクが有意に低減することが示された。英国London大学のIrene Petersen氏らの報告で、詳細はBMJ誌2007年10月20日号
に掲載された。

臨床ガイドラインでは、上気道感染、喉の痛み、中耳炎の患者に対して日常的に抗菌薬を使用しないように明記されている。胸部感染については、急性気管支炎(抗菌薬の使用は推奨せず)と肺炎(適用を推奨)に二分されている。

英国では、急性呼吸器感染に対する抗菌薬の処方は1994年から2000年の間に45%減少した。しかし2000年の時点でも、一般医を訪れる呼吸器感染患者の67%に抗菌薬が処方されていた。疾患別に見ると、胸部感染患者の90%超、中耳炎患者の80%超、喉の痛みの患者の60%超、上気道感染者の47%超が処方を受けていた。エビデンスベースのガイドラインの内容と日常診療の間のギャップは明らかだ。

著者らは、抗菌薬の処方が続いている理由の一つは、重症の合併症への不安にあると考えた。そこで、大規模なプライマライケアデータベースを用いて、抗菌薬が呼吸器感染後の重症合併症リスクをどの程度減じるかを評価する後ろ向きコホート研究を実施した。

英国の一般診療データベースに臨床記録を登録している診療所162施設を訪れた呼吸器感染の患者が対象となった。主要アウトカム評価指標は、抗菌薬処方を受けた患者と受けなかった患者の、診断から1カ月間の重症合併症のリスクに設定した。重症の合併症として、中耳炎後の乳様突起炎、喉の痛みの後の化膿性扁桃腺炎、上気道感染と胸部感染後の肺炎を選んだ。

ロジスティック回帰分析を実施し、年齢、性別、社会的隔離などで調整して、抗菌薬の合併症予防効果のオッズ比を求めた。合併症を1件回避するための治療必要数 (NNT)も求めた。

解析の結果、呼吸器感染は336万件で、上気道感染が108万1000件、喉の痛み106万5088件、中耳炎45万9876件、胸部感染は74万9389件だった。これらについて重症合併症の発症を調べたところ、上気道感染、喉の痛み、中耳炎後の重症合併症はまれだった。例えば、中耳炎後の乳様突起炎のリスク(1万人当たり)は、抗菌薬処方なしの場合、0〜4歳が1.33、5〜15歳は2.39、16〜64歳で11.92、65歳以上が9.46。処方ありではそれぞれ0.53、1.79,6.77、5.62となった。

処方なし群に比べると、処方あり群では、上気道感染後の肺炎の調整オッズ比は0.68(95%信頼区間0.58-0.79)で、NNTは4407(2905-9126)。中耳炎後の乳様突起炎は0.56(0.37-0.86)、NNTは4064(2393-13456)。喉の痛み後の化膿性扁桃腺炎は0.84(0.73-0.97)、NNTは4300(2522-14586)。このように抗菌薬の処方は重症合併症を有意に減らしたが、NNTはいずれも4000を超えた。

一方、胸部感染後の肺炎発症は、抗菌薬投与により有意に減少していた。胸部感染後の肺炎のリスク(1万人当たり)は、抗菌薬処方なし群の場合、0〜4歳が125.92、5〜15歳は127.31、16〜64歳で116.10、65歳以上が402.68。処方あり群ではそれぞれ27.15、22.74,31.80、146.14だった。

処方なし群と処方あり群の肺炎のオッズ比は、0〜4歳が0.22(0.17-0.27)、5〜15歳が0.18(0.13-0.24)、16〜64歳は0.27(0.23-0.32)、65歳以上は0.35(0.33-0.38)。NNTはそれぞれ101(85-125)、96(73-137)、119(105-136)、39(36-42)となった。

このように、胸部感染後の肺炎リスクが高い高齢者の場合、抗菌薬投与の利益は大きいといえる。


2007.11.8 Nikkei Medical