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肥満児の7割が健康に異常

尼崎市の小児習慣病調査
生活習慣病への進展防止に早期介入を

近年、全国的に肥満児の増加が問題となっている。文部科学省の「学校保健統計」によると、子どもの体格はやせと肥満に二極化する傾向がみられ、特に男子では肥満児が増えている。こうした中、兵庫県尼崎市では市医師会や市教育委員会などが連携して2003年度から「小児生活習慣病調査」を実施している。これまでの調査結果によると、肥満児の7割になんらかの検査値異常が見つかっており、肥満児に対する早期介入の必要性が明らかとなっている。

全国的に肥満児が増加する中で、国も取り組みを本格化し始めている。厚生労働省は昨年度から若年期の肥満予防対策事業を開始し、肥満児を減らすための取り組みを進めている。
一方、尼崎市では全国平均よりも肥満児の割合が高いことが分かっている。早くから肥満児の増加を問題視していた徳田こどもクリニック(尼崎市)院長の徳田正邦氏によると、尼崎市での小児肥満の割合は12%程度で、8-10%の全国平均を大きく上回っている。
中でも肥満度30%以上の中等度肥満の増加が顕著で、学校によっては20%程度の児童・生徒が小児肥満と診断されているという。

肥満度30%以上は6%前後

尼崎市ではこうした事態を問題視し、肥満児の実態を明らかにするため、徳田氏ら市医師会員や市教育委員会の担当者などが連携して、03年度から小児生活習慣病調査を行っている。

実施主体は、市教育委員会の担当者、公立小中学校の校長・養護教諭、市医師会員などで構成される「尼崎市子どもの健康づくり委員会」。調査対象は、新学期の身体測定で肥満度30%以上だった児童・生徒。対象者には夏休み前に「小児生活習慣病調査票」を配布し、夏休み中の早朝・空腹時に医療機関を受診するよう勧告した。

受診者には、生活習慣病を構成する糖尿病、高血圧などの有所見者を見つけるため、一般診察・尿検査・血圧測定・血液検査を実施した。受診は任意で、自己負担額は約3000円。調査には市内の70-80医療機関が協力した。

これまでの調査結果を総括すると、いずれの年度でも肥満度30%以上の児童・生徒では、70%近くに検査値異常が認められ、小・中学生の段階ですでに生活習慣病予備群として、なんらかのリスクを抱えていることが判明している。

市内の公立小中学校の児童・生徒は約3万5000人。各年度とも、受診の勧告を受けた肥満度30%以上の割合は6%前後(2000人前後)、受診者は350人前後となっている。

高頻度のインスリン高値と高尿酸血症

各種検査で異常が認められる頻度は毎年ほぼ同じような傾向。特にインスリン高値や高尿酸血症などが目立つという。03・04年度の異常が認められたデータの割合は、高血圧6.9%・7.5%、ALT22.8%・23.7%、高コレステロール血症10.2%・10.1%、高中性脂肪血症28.6%・31.2%、低HDLコレステロール血症14.4%・14.5%、高インスリン血症45.7%・48.9%、高尿酸血症22.0%・22.7%。ただ、いまのところ同調査から2型糖尿病は見つかっていないという。

高血圧の頻度も少なくないが、多数の医療機関が参加しているため、施設によって測定条件が異なる可能性がある。このため血圧は評価対象外としている。

調査結果から徳田氏は、肥満児では7割になんらかの異常が認められる点に注意を喚起。さらに「こうした調査の数字には表れてこないが、肥満の子どもは身体的だけでなく、精神的にも異常を抱えているケースが少なくない」と述べ、神経・精神症状を含めた心身両面からの肥満対策の必要性を強調する。

ただ、医療側からは教育現場・家庭への直接的な介入は難しいため、具体的な肥満児対策としては、「肥満児の親への啓発活動が一番重要になる」と指摘する。一方で、医療機関や診療科によって肥満児の対応にばらつきがみられるため、肥満指導の標準化など、指導格差を減らす努力も今後必要だという。

さらに小児科医の立場から、徳田氏は「生活習慣病を発病しないように、幼児期から肥満にならないことが大切」と説く。しかし現状では、就学前の乳幼児の身体測定データが、個人情報保護などの観点から、小学校以降の学校保健に連続して生かされていない。徳田氏はこうした点も肥満対策の問題点に挙げる。

今年度から市が費用負担

尼崎市では、調査の実効性をさらに高めるため、今年度から小児生活習慣病調査の小学校の対象者に対し、受診費用を負担している。自己負担がなくなったこともあって、現時点では、昨年の同時期に比べて受診者は若干増加しており、行政支援の効果が出ているという。

徳田氏ら市医師会では、今後も継続的に調査に取り組み、肥満児対策に取り組んでいく方針。連携して取り組んでいる市教育委員会の担当者も「尼崎市は肥満児の割合が全国平均を上回っているので、今後も市医師会と協力関係を保ちながら、子どもたちの健康を守るために努力していきたい」と話している。


2007.11.14 Japan Medicine じほう