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口内炎
痛くても、汚れは放置しないこと

あなたの処方箋 口内炎

長引くときは医療機関受診を
 「口の中にはすぐに治るアフタ(浅い潰瘍)しかできないと思っている人が意外と多い。いつも『単なる口内炎』と思いこんで安心してはいけない」。山根源之・東京歯科大教授(歯科・口腔(こうくう)外科)は強調する。

 「ほおの口内炎が治らない」と訴えてきた患者がいた。この患者は以前、アフタができて医療機関を受診したときにステロイドの入った軟こうを処方され、すぐに治ったことがあった。今回も同じだろうと思い、残っていた薬を1カ月ほど使い続けていたが、実は口腔がんで、山根さんが診たときにはかなり進行した状態だった。

 がんに限らず、長引いたり繰り返しできる口内炎は、深刻な病気が原因であることも多い。山根さんは「口内炎に気づいたら、症状が口の中だけか、全身や体の他の部位にも症状が出ているかを確認してほしい」と言う。

 水疱(すいほう)はつぶれると一見、普通のアフタのようにも見えるが、ヘルペス性口内炎やヘルパンギーナなどウイルスが原因の場合は、発熱など全身症状がある。手足口病では手足にも発疹が出る。難病の全身性炎症疾患「ベーチェット病」は、患者の9割が最初の症状として口の中のアフタを訴え、他に外陰部、皮膚、目に主な症状が出る。

 長引く口内炎で口の中以外の異常の有無や原因が分からないときは、口腔外科、耳鼻咽喉(いんこう)科、歯科などを受診し、必要に応じて別の診療科や専門医を紹介してもらう。

 口内炎の原因がどんな病気であっても、2次感染を防ぐために常に口の中を清潔にしておくことが大切だ。痛みが非常に強いときは、軟らかい食べ物や流動食を勧めるという。栄養も取れるし、口の中に食べかすが残りにくくなるからだ。歯科などでは、歯ブラシの毛の部分がスポンジになった専用のケア用品、粘膜に刺激を与えない口腔粘膜湿潤剤などを使って汚れを取ったり、症状を和らげる。

痛くても、汚れは放置しないこと
  抗がん剤治療などを受けている人は免疫力が低下しているため、口の中の潰瘍や傷口から細菌に感染しやすい。国立がん研究センター中央病院で治療を受けていた乳がんの女性は、抗がん剤投与を受けて約1週間経過するといつも小さな潰瘍ができ、回復したころまた投与を受けるパターンを繰り返していたが、約半年後、「今回の口内炎はいつもと違う。痛みが強くなかなか治らない」と主治医に訴えた。潰瘍から細菌が入って炎症が悪化し、じっとしていてもびりびりと激痛が走った。痛みが強くなってからは歯磨きができず、口の中はますます汚れた。主治医に歯科を紹介され、痛み止めを使用しながら、歯科医に口の中をきれいにしてもらうと、数日で、潰瘍に触れなければ痛みもないという程度に戻ったという。

 同病院の歯科医、上野尚雄さんは「痛いからと汚れを放っておくと感染を起こして口内炎が悪化したり、全身に感染が広がることもある」と話す。

 自分でケアをする場合は、痛みのある部分に触れないよう、子ども用など毛の部分が小さく、できるだけ柔らかい歯ブラシを使う。歯磨きができない場合は、ぬるま湯や生理食塩水(水1リットルに食塩9グラムを溶かす)でうがいをする。口の中の粘膜全体が弱っているため「アルコールを含んだ洗口液や強い殺菌作用のあるうがい薬は控えてほしい」(上野さん)という。

 同センターと日本歯科医師会は昨年、がん患者の歯科治療、口腔(こうくう)ケアを推進するための医科歯科連携事業を始めた。身近な歯科でがん患者に定期的な治療やケアを行い、口の中のトラブルが原因でがん治療が妨げられることがないようにするのが目的だ。今月末から、手術を受ける患者を対象に虫歯や歯周病の治療、口内の汚れを取るケアを関東地方で実施する。上野さんは「歯科で専門家に歯石や歯の着色などを取ってもらうと、その後汚れが付きにくくケアも容易になる。抗がん剤などで口内炎ができるリスクを持つ人は、事前に歯科を受診し、徹底的にきれいにしてもらってほしい

2011.01.14 記事提供:毎日新聞社