牛乳と加工食品など

カルシウムの吸収阻害

骨の密度が下がり、転倒時などに骨折を引き起こしやすくなる骨粗しょう症。更年期の女性ホルモン減少や過度のダイエットなどを引き金に、女性の発症が目立つ病気だ。食事によるカルシウム補給と適度な運動が、骨密度維持につながる策だが、いっしょにとる栄養素の種類や量によっては、吸収が阻害されてしまうことがあるという。注意したい食べ合わせを探った。

「サプリメント(栄養補助食品)や健康食品の増加で、栄養素の摂取バランスが崩れている。特定の栄養素が吸収されないことから、骨粗しょう症の対策がうまくいかないことがある」と警鐘を鳴らすのは、女子栄養大学の本田佳子教授。ハムや即席めんなど加工食品に、粘着や発色効果を狙って添加されるリン酸塩に含まれるリンは、小腸内で骨の主要構成物質のカルシウムと結び付き、吸収を妨げるのだという。過剰な食物繊維の摂取もカルシウムの吸収に悪影響を及ぼす。

タンパク質を土台にした骨は、カルシウムを吸収して蓄え、硬い骨基質を形成する。同時に体の必要に応じてカルシウムを血液中に排出もする。蓄えられるカルシウムの量は20代前後で最大となり、その後はほぼ横ばいで増えにくい。健康なら形成と破壊をバランスよく繰り返す。だが極端なダイエットを試みたり、50歳前後で閉経したりすると、女性ホルモンの減少とともにカルシウム量は激減する。栄養素のバランスが崩れても、破壊が骨形成を上回り骨粗しょう症になる。

例えば、18−29歳の女性で1日当たり600ミリグラム必要なカルシウム。最近の日本人の食生活では、総カロリーが十分でもカルシウムが不足している人が多い。その上、加工食品や清涼飲料水などを通じて、食品添加物に多く含まれるリン酸塩を過剰に摂取している。日本食品標準成分表によると、リン酸塩は中華味カップめん100グラムあたり120ミリグラム含まれる。リン酸塩をカルシウムの2倍を超えてとると、カルシウムは骨形成に使われなくなるという。リンと結びつき、腸から吸収されなくなるからだ。

600ミリグラムをとるためには、200ミリリットルの牛乳1杯と、大豆製品を組み合わせて食べるといい。「チーズや小魚などでカルシウムを十分に取り、リン酸塩などの多い加工食品はなるべく控えたい」(国立健康・栄養研究所の石見佳子栄養疫学プログラム生体指標プロジェクトリーダー)
さらにコーヒーなどに含まれるカフェインやアルコールの過剰摂取や、喫煙によっても、骨の代謝力は弱まる。例えばコーヒーを1日4杯以上飲むとカフェインの取りすぎとなり、代謝を弱める原因になるようだ。

食事と同様に大切な運動では、筋肉を通じ骨に刺激が伝わっているかどうかが問題になる。健康維持に必要な運動では、水泳や特別なストレッチを思い浮かべる。だが骨は「運動器のひとつ」という考えを提唱する東京大学大学院教育学研究所の武藤芳昭教授は「日常生活で、足腰を使い、活動量を増やすことから始めるべきだ」と指摘する。

東京都世田谷区の上馬整形外科クリニックは、骨粗しょう症を意識した体操教室を実施している。教室主宰の運動指導士の太藻ゆみこさんは「体の軸を意識しながら重力と体重を利用できるものを考えた」と説明する。

その1つでバランスボールを使う体操は、自然に背骨を伸ばしたまま足腰の鍛錬やストレッチができる。かかとから踏み込む動作が足腰を刺激する。ひとつひとつは日常生活の動きに近く、教室内でしたことを普段から意識してもらうことを参加者に訴えている。「いきなり水中運動などを始めるよりも、まず生活の中で体の隅々まで骨や筋肉を刺激していることを意識してほしい」(太藻さん)

運動には「骨を破壊する細胞の働きを抑え、骨量の減少速度を遅くする」(大阪市立大大学院の小池達也助教授)効果がある。骨という見えない部分の健康に対しても、食べ合わせの注意点などの知識を生活に生かし、早めに予防を始めることが大切だろう。

骨粗しょう症対策、食べ合わせに注意
(摂取目標量と上限は18〜29歳の女性1日あたり)


骨形成に必要不可欠な栄養素
カルシウム

(骨の主成分)

摂取目標量は600ミリグラム、上限は2300ミリグラム

 

 





ビタミン類
ビタミンD

(カルシウムの吸収を助ける)
日光により皮膚で形成

ビタミンK
(骨のもとになるタンパク質の活性化を促す)
栄養素の吸収を妨げる成分

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栄養素の吸収を妨げる成分
過剰なリン
加工食品、食品添加物に多い  摂取目安量は900ミリグラム、上限は3500ミリグラム
過剰な食物繊維
サプリメントや健康食品でとりすぎることがある。摂取目標量は17グラム
フィチン酸
玄米などの穀類や豆類に多い



キトサン
ダイエットサプリメントに多い(脂肪同様、脂溶性ビタミンの吸収を妨げる)


 2006.8.26