野菜や果物 毎日400グラム
進展抑えるビタミンC

日本人の3人に1人はがんで死ぬ。毎年30万人強の命を奪うがんをどこまで予防することが可能なのか。喫煙、食事、運動、飲酒など生活習慣の要因が複雑にかかわるだけに一筋縄ではいかない。がん予防に関する健康情報も玉石混交で、あまりまどわされないようにしたい。

人間の体は約60兆個の細胞からできている。毎日、200個に1個の割合で古くなった細胞が死んでいき、細胞分裂で同じ数だけ新しい細胞に生まれ変わる。この時、活性酸素が遺伝子を構成するDNAを傷つけると、正常な細胞が突然がん細胞に変わる。

長年、ビタミンCはがん予防効果が大きいとされてきた。活性酸素を退治する抗酸化作用や免疫力を高める効果があるためだ。

厚生労働省研究班(主任研究者・津金昌一郎国立がんセンター予防研究部長)の疫学調査によると、胃がんになるリスクの高い萎縮性胃炎患者がビタミンCを摂取することで病気の進展が抑えられることがわかった。「胃の中で発がん物質ができるのを抑制しているようだ」(津金部長)

野菜の中では、キャベツやブロッコリーに含まれる成分が調理や消化の過程で分解してできたイソチオシアネートと呼ぶ物質が細胞のがん化を防ぐ効果があることが動物実験で示唆されている。発がん物質の解毒酵素の働きを強める。厚労省研究班の調査でも、胃や大腸のがんになった人たちはブロッコリーの摂取量が少ない傾向が見られた。

緑黄色野菜もがんリスクを下げる効果が期待されている。ベータカロチンと呼ぶ物質に抗酸化作用があるからだ。中国でベータカロチンを摂取したグループと偽薬(プラセボ)を摂取したグループを比較した疫学調査では胃がんのリスクが20%減った。

しかし、米国などの研究者が肺がんの予防効果を調べると優位性が認められず、むしろベータカロチンでがんの発症が増えるという「不思議な」結果になった。食事で摂取する量に比べて大量のベータカロチンをとったことが原因と見られている。過剰な摂取は逆効果になる。

大腸がんのリスクを減らすといわれてきた食物繊維だが、最近は異論もでている。食物繊維単独による効果というより、むしろ、野菜などに含まれる複数の栄養素ががんリスクをを減らすという考え方が広がりつつある。

豆腐や納豆に含まれるイソフラボンは、乳がん予防に効果がある可能性がある。女性ホルモンのエストロゲンに似ており、この働きを抑えると考えられるからだ。40歳から59歳の日本人女性約2万人を10年間追跡したところ、イソフラボン摂取量が最小のグループに比べて、最大のグループでは乳がんリスクが半減した。

がん予防に効果的とされる食べ物はいくつかあるが、いったいどこまで信頼できるものなのか。
世界保健機関(WHO)や国際がん研究機構(IARC)などが組織した委員会が、がん予防に関する世界中の科学論文を評価したところ、がんを防ぐ可能性が高いものは「野菜・果物」だけだった。ある特定の食材や栄養素ががんを予防できる化学的な確証はまだ得られていない。

いろいろな種類の野菜や果物を毎日少なくとも400グラムとり続ける。とくに野菜は毎食とるのがよい。この食生活を続けたならば、がんリスクは必ず下がるというのがこれまでの疫学研究からわかった結論だ。  (合田義孝)

科学的根拠のあるがん予防法

野菜・果物を少なくとも1日400グラムとる。野菜は毎食、果物は毎日
適度な飲酒。日本酒なら1日1合(ビールなら大瓶1本)以内
塩分の摂取は最小限。男性なら1日10グラム未満、女性なら8グラム未満
食事は腹八分目。太りすぎない、やせすぎない
熱い飲食物は最小限

厚生省のがん予防意識調査

「関心ある」8割
33%が食事を改善

厚労省研究班が2千人を対象に実施した日本人のがん予防に対する意識調査によると、約8割が関心を持っており、3人に2人の割合で具体的な予防策に取り組んでいることがわかった。長年、がんは日本人の死因トップだけに関心の高さがうかがえる。
がん予防に「関心がある」と回答した人は79.8%。特に40代が87.0%と一番高かった。がん予防への取り組みを「やっている」人は66.8%。具体的には「食事の改善」が最も多く33.4%、「がん検診や人間ドックの受診」が25.5%、「たばこを吸わない・控える」が21.5%だった。

がんの原因と考えられるものについて尋ねたところ、「細菌・ウイルス」がトップで「たばこ」が2番目。医学的にがんとのかかわりが低いと見られる「環境ホルモン」や「有害物質」、「大気汚染」などと回答した比率も高かった。
一方、たばことほぼ同じ程度の関連性があるといわれる「食生活」は12項目中の8番目。がんは糖尿病や高血圧症などと同じ生活習慣病であるにもかかわらず、この認識が低いことがわかった。


2006.6.11 日本経済新聞