慎重論には疑問

困ったことになっている。国の食品安全委員会が、大豆のなかに含まれる「大豆イソフラボン」について、過剰摂取に警鐘を鳴らす見解をまとめたからだ。「大豆や納豆を食べ過ぎると体に良くないのですか」と質問される機会が増えた。

今回食品安全委員会は、1日の安全摂取量を70−75ミリグラムとした。国民栄養調査などから、日本人の95%までが1日70ミリグラムまでの摂取にとどまっており、健康被害も出ていないからだ。この安全摂取をベースに、サプリメント(栄養補助食品)などから大豆イソフラボンを取る上限は「1日30ミリグラムにとどめること」とした。

30ミリグラムだと豆腐3分の1丁(100グラム)、納豆1パック(50グラム)を超えると健康を害する危険性も否定できないとの解釈もできる。

関東・関西に住む約1千人を対象に日本人の大豆イソフラボン摂取量を調べたことがある。今回の安全摂取量の目安(70ミリグラム)が妥当だとすれば、およそ1割が過剰摂取にあたる。日本人の10人に1人が、大豆や納豆を食べて健康を害するかもしれないというのは何かおかしいのではないか。

大豆をたくさん食べる人ほど、心臓病や乳がん、前立腺がんになりにくいというのがわれわれが世界中で実施した疫学研究から導いた結論だ。骨粗しょう症や更年期障害のリスク軽減にもつながる。

確かに最近は便利なサプリメントがたくさんある。簡単に摂取できるため過剰摂取に気をつけなければならない。ただ、大豆に関してはむしろ若い人を中心とした「過少摂取」の方が心配だ。

世界保健機関(WHO)の研究として過去30年間、25カ国61地域を訪ね生活と健康との関係を調べてきた。その経験を踏まえ長生きと食の強いつながりを紹介していく。

(武庫川女子大国際健康開発研究所長  家森幸男)


2006.4.2 日経新聞