野菜をたくさん取ることは、がん、循環器疾患、糖尿病などの予防で重要だ。ただ、どの野菜のどんな成分が有効なのか、はっきりと言うのは難しい。疫学研究では、せいぜい総量か大ざっぱな種類別での把握が限界だった。

1980年に入り、食物摂取頻度調査票が開発された。日常的な食品について摂取頻度などを回答してもらうだけで、食べ物の摂取量が、個別の食品や栄養素レベルで、おおまかに推定できるようになった。

すると、ブロッコリーやキャベツなどアブラナ科野菜のがん予防効果を示す結果が報告されるようになった。われわれが長野県で実施した疫学研究でも、胃や大腸などのがんになった人たちは、ブロッコリーの摂取が少なかった。

アブラナ科野菜は、グルコシノレートという他の野菜にはない成分を含む。調理や消化の過程でイソチオシアネートに分解されるが、この物質は、動物実験で発がん性を抑制することが確認されている。発がん物質の解毒酵素の活性を高める作用によるものと考えれれる。

イソチオシアネートの推定摂取量や尿中の排せつ量との関係から、肺がんリスクを抑制する効果が観察された。ある解毒酵素の活性が遺伝的に低いグループでは、特に抑制効果が強いという。遺伝的な不利が、ブロッコリーを食べて補えるとしたら、大変興味深い。

世界保健機関(WHO)傘下の国際がん研究機関(IARC)は、がん予防効果の有無を科学的根拠に基づき評価している。運動や野菜・果物の評価に続き、アブラナ科野菜を単独で取り上げ、2004年に公表した。

総合評価は「アブラナ科野菜に含まれる成分は、そのメカニズムや動物実験から、発がんを抑制する可能性はある。胃がんや肺がんリスクをある程度下げているという人での知見もある。しかし、その効果はトータルな野菜の摂取には及ばないだろう」。野菜をたくさん食べる食生活の中で、アブラナ科野菜を、たまには意識して取ると良いかもしれない。
(国立がんセンター予防研究部長  津金 昌一郎)


2005.9.4 日経新聞