職場でモーツァルト、能率アップ
みんなの○○ 音楽セラピー



  ふだん何気なく聴く音楽は、意外にも人の健康や体の機能に大きな影響力を持っている。老人ホームなどの施設や病院で音楽セラピー(療法)が盛んになっている。もっと音楽の力を活用してみたい。

 好きな音楽を聴くと、イライラや憂鬱さが解消された。そんな体験が誰にもあるだろう。では、どんな音楽を聴いたときに効果があるのか。

 音楽が体の免疫機能に及ぼす影響を20年以上研究してきた和合治久・埼玉医科大教授は「バッハ、ショパン、演歌、いろいろな曲で実験してきましたが、モーツァルトの曲に行き着きました」と話す。

 人はリラックスしていると自律神経系のうち副交感神経が優位になり、血圧や心拍の安定、血流の改善、体温の上昇、免疫力の向上、唾液の増加などストレスのない状態が得られる。人を対象にした数々の実験でモーツァルトの曲は副交感神経にスイッチを入れ、リラックス状態を導くことが分かった。

 なぜ、モーツァルトなのか。人は20〜2万ヘルツの周波数の音を聞くことができる。モーツァルトの曲は4000ヘルツ前後の周波数の高い音が多く、和音や繰り返しのロンド形式などが豊富だ。この特徴を持つ音の振動が脳を刺激し、副交感神経の働きをよくするというのが和合さんの考えだ。

 このリラックス効果は、モーツァルトの曲が好きかどうかとは関係ない。耳のない酵母菌やプラナリア(川にすむ扁形(へんけい)動物)に聴かせたところ、死亡率が低下したり、粘液の分泌能力が上がったりする。どの生物も音の振動を感じて影響を受けているわけだ。

 ならば、モーツァルトに似た高周波数の曲を職場で流せば、働く人のストレスが軽くなり、仕事の能率が上がるのではないか。そんな発想から、有線放送サービスを提供するUSEN(東京)は作曲家でピアニストの中村由利子さんにモーツァルト効果を取り入れたオリジナル曲を作ってもらい、今年2月から、放送チャンネルに組み入れて流し始めた。職場で好評という。

 和合さんは「音楽セラピーは副作用もなく、コストもかからない。日常生活だけでなく、医療や福祉施設などで活用すれば、医療費も削減できるのでは」と普及を目指す。【小島正美】

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 ▼明日は「嚥下障害リハビリ」です。

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 ◇モーツァルトの曲を使った応用例

・免疫系疾患(がん、感染症など)

  ディベルティメント第17番ニ長調第1楽章▽クラリネット協奏曲イ長調第3楽章▽バイオリン協奏曲第4番ニ長調第3楽章

・脳神経系疾患(認知症、耳鳴りなど)

  セレナード第13番ト長調「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」第3、4楽章▽バイオリン・ソナタ第34番変ロ長調第1、3楽章

・血液循環系疾患(高血圧、動脈硬化など)

  ピアノ・ソナタ第15番ハ長調第1、第2楽章▽バイオリン協奏曲第3番ト長調第1楽章▽ピアノ協奏曲第23番イ長調第1楽章


  2013年8月26日 提供:毎日新聞社