はつらつ養生訓

薬補は食補にしかず


多くの人がサプリメントを使っている。最近はコンビニエンスストアやスーパーマーケットでも販売コーナーを設けている。私たちの40歳以上を対象とした調査でも男性54.5%、女性61.3%と半数の人が利用していた。中には1人で53種類も使っている人もいた。

生活習慣病や老化には栄養が深くかかわっている。病気予防や健康増進、長寿に有効とされる栄養成分は数多く報告され、その中にはサプリメントとして摂取されているものも多い。しかし有効性が科学的に証明されているものは少ない。動物実験で効果があるとされた場合でも、人ではどうかということが分かっていないことが多い。

例えばビタミンC。不足すれば貧血や出血を起こす壊血病になることは知られているが、大量に使用した場合のがんや動脈硬化に対する予防効果についてははっきりした結論は出ていない。がんを予防する作用があると以前からいわれていたβカロチン(ベータ)−カロチンの服用は、喫煙者ではむしろ肺がんになる危険を高めるという結果がある。

食物繊維は脂肪や発がん物質の吸収を抑えるが、多く取りすぎるとカルシウムの吸収まで抑制してしまう。鉄分やビタミンAなどの過剰摂取がかえって健康に悪いこともある。様々な種類のサプリメントを同時に使った場合や医薬品などと併用した場合の複合作用などはよく分かっていないことが多い。

貝原益軒の「養生訓」に「薬補は食補にしかず」とあるように、薬よりも食事が大事だ。ビタミンやミネラル、食物繊維などを含めてすべての栄養素は基本的に食物から取るべきだろう。

ただ、サプリメントの利用が有効と思われる人もいる。日本では乳頭不耐症といって牛乳を飲むと下痢をする人も多い。こうした人たちは、どうしてもカルシウム不足になりがちだ。女性では鉄分が不足して貧血になっている場合もある。高齢者では食事の量が減り、ビタミンやミネラルの摂取などが少なくなりがちだ。サプリメントは専門家のアドバイスを受けて、必要なときに上手に使おう。

(国立長寿医療センター疫学研究部長 下方 浩史)

2004.5.9付 日経新聞