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健康食品摂取後、体調が優れない




おなか周りを気にして、ダイエット効果があるという健康食品を買った40代のサラリーマン。2カ月ほど摂取したが、効果がないばかりか時々息切れや目まいがするなど体調が優れない。医師は健康食品が原因の可能性があると話す。業者の責任を追及できるだろうか。

Q 業者に責任問える?

夫「手軽にやせられるという触れ込みだったんだ」
妻「甘い言葉を信じちゃだめよ。あなたは太めでもすてきなのに」


「健康食品」とは、法令などに定義はなく、健康の保持や増進に役立つ食品として販売・利用されるものの総称だ。有効性や安全性についての国が定める一定の基準を満たした「保健機能食品」と、それ以外の一般食品扱いの「いわゆる健康食品」に分けられる。
食品は本来、薬事法に基づき、病気の症状を改善させるといった医薬品と誤認されるような表示はできない。例外的に保健機能食品のみ、健康への効果や含まれる栄養素の働きを、商品の包装や広告で表示することが認められている。
だが、いわゆる健康食品なのに「がんが治った」「簡単に体脂肪が減る」といった誇大な宣伝文句で消費者を引き付けようとする例は後を絶たない。誇張した表現や健康被害など、「トラブルが実際に生じているのは大半がいわゆる健康食品」(厚生労働省医薬食品安産部)という。


食品の分類

一般食品(いわゆる健康食品)

保健機能食品 特定保健用食品
・許可制
・特定の保健の用途に資する旨を表示

栄養機能食品
・基準に適合すれば許可申請や届け出不要
・栄養素の機能を表示

A 製造物責任法で追及も

妻「治療を受けたほどだから返品じゃ済まないわ」
弁護士「製造物責任法で追及する事例も出ています」


単に何も効果が得られなかったという場合なら、消費者として検討するのは一般には返金交渉程度だろう。しかし、健康被害など人的損害を受けたとなると、不法行為責任か製造物責任を問うことが考えられる。
名古屋地裁は2007年11月30日、健康食品としては初めて、製造物責任法(PL法)に基づく損害賠償を製造業者、販売業者に命じる判決を出した(控訴中)。「アメシバ」という植物を粉末にした健康食品を摂取した母娘の2人が、閉塞(へいそく)性細気管支炎という肺障害を発症した事件だ。
民法上の不法行為による訴えでは、メーカーなどが被害を防ぐための注意や措置を怠ったという過失の存在や損害との因果関係を、消費者側が立証する必要がある。一方、PL法での訴えは、消費者が商品に欠陥があったことさえ証明すれば足りる。製造者側は過失がなかったと証明しなければならず、消費者はPL法の方が責任を追及しやすい。
企業法務に詳しい浅見隆行弁護士によると「従来、健康食品でここまで深刻な被害は少ないうえ、法施行以前の製造物は対象外だったことなどから、PL訴訟はほとんどなかった。ただ今後は、立証責任が軽いPL法での訴えは増えるだろう」と話す。また、訴える可能性も視野に「不調を感じたらすぐに病院のカルテや食生活の記録を残しておいた方が、訴訟時に被害との因果関係を推定してもらいやすくなる」(浅見弁護士)。

夫「専門家の推薦文もあったから信用したんです」
弁護士「立場上求められる注意義務に違反したとみなされる可能性があります」


名古屋地裁判決でもうひとつ注目されているのは、問題となった商品の読者プレゼントや問い合わせ先を含む記事を掲載した雑誌出版社と、記事中の執筆部分で効用のみを解説し危険性を指摘しなかった医学博士に対して、それぞれ不法行為責任の有無を判断した点だ。
出版社については、「記事が実質は広告に当たり、健康にプラスの作用しかないと読者に誤信させ、消費者に病の発症を招いたが、結果を予見できなかったことに過失はない」として責任を否定した。これに対し、医学博士については専門家としての注意義務に違反し責任ありとした。危険性を「その時点の最高の知識と技術をもって確認し」警告すべき義務があること、海外の被害例から事態を予見できたはずなのに有効な調査をしなかったことなどを指摘した。
「商品を権威付けた専門家にはメーカーと並び責任がある。特に学者の肩書は一般体験者や芸能人推奨コメントより消費者の信用が高い分、求められる注意義務の水準も高い」(原告代理人の杉浦英樹弁護士)との考えが認められた形だ。製造・販売会社以外の関係者にも警鐘を鳴らす判決といえる。
健康食品は、不足しがちな栄養素を効果的に補給できるなど利点は多いが、大げさなうたい文句には注意も必要だ。国立健康・栄養研究所のホームページ(「健康食品」の安全性・有効性情報→「素材情報データベース」)では、健康食品に利用される成分の特徴や注意点をまとめており、こうした情報を参考にしながら利用を判断した方がよいだろう。(近藤明日香)

                                         2008年5月24日 提供:日本経済新聞