サプリメント

多量摂取に警告

サプリメントを飲んでいたことがある。10年近く前、米国ボストンに留学していた時だ。ビタミンEがLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)の変性を防いで動脈硬化を抑え、ひいてはビタミンEのサプリメントが心筋梗塞(こうそく)の予防になるかもしれないという初期の研究が報告され始めていた。

米国ではサプリメントが安価に入手できたこともあり、手軽な健康法のつもりで飲み始めた。もっとも次第に面倒になり飲み忘れが多くなった。帰国の際には多数のカプセルが残ったボトルを捨て、それきりとなった。

その後、ビタミンE剤を使った大規模な臨床試験が続けて報告された。意外なことに初期の研究と異なり、心臓病の予防や再発防止にはつながらないという結果が多かった。そのため、食生活と病気予防に関する世界保健機関の2003年報告書は、ビタミンEサプリメントによる心臓病や脳卒中の予防について、「確実」に「関連なし」と結論。効果のないことが「確実」であるという、皮肉な判定となった。

05年には、質の高い臨床試験19件のデータを集計して総合評価した論文が、米国内科専門医会の学会誌に報告された。19件全体の分析では、ビタミンE剤の投与により、死亡率は低下も上昇もしなかった。だが多量にビタミンE剤(1日400国際単位以上)を使った11件の臨床試験に限ってみると、投与群の死亡率が非投与群より4%高かった。

むろん、病気の治療目的で医師が処方したビタミンE剤を飲むのは意味がある。また、前立腺がんなど一部の病気の予防に対するビタミンE剤の効用は研究途上で、今後に期待する向きもある。通常の食物から取るビタミンEが健康に必要なのは言うまでもない。

だが05年論文は多量のビタミンE剤による害の可能性を示すものだった。明確な必要性や理由がないのに多量の栄養素を体に取り込むことに対し、警告を与えるデータとして受け止めるべきだろう。
(東北大学公共政策大学院教授  坪野 吉孝)

 

 

2008.4.20記事提供:日経新聞