すしは日本人ばかりでなく世界中の人からも好まれる。それは美味しくて体に良いからだ。この美味しさの秘密は五味の調和にある。すしめしは、酢(酸、苦)、砂糖(甘)、塩(鹹=かん)といったもので調味され、すしにはしょうがやわさび(辛)がつくので味わってみると、酸、苦、甘、辛、鹹(塩からい)の五味のあることに気付くだろう。

五味は中国伝統医学の五行説からきており「酸味は肝臓に、苦味は心臓に、甘味は脾(消化器系)臓に、辛味は肺臓に、鹹味は腎臓に入り、それぞれを養う」とし、五味のバランスを考えて飲食することは、五臓全体に通じるとしている。

さらに五行には五色という考え方がある。これは青(緑)、赤、黄、白、黒という五つの色のことで、この五色をバランスよく取り入れると目にも美しく、より美味しさをかもし出す。
五目すしなどその良い例だろう。緑はさやえんどう、赤は人参、紅しょうが、黄は錦糸卵、白はかまぼこ、黒はしいたけ、海苔など。五色を考えると栄養のバランスも摂りやすくなる。

先日中国の楊州を訪れた、この地は日本に似て、米、野菜、魚介類が豊富である。150年の伝統を持つレストラン「富春茶社」で食事をした時、メニューを見てハットした。「ここで出す料理は、美味しく、健康的に摂るために、五味五色を取り入れた……」と。まさに日本の懐石料理とそっくりである。この地はかつて遣唐使が訪れた所、日本料理はここから来たのだろうと思った。

家庭料理にも五味五色を摂り入れてみたらいかが。
(新宿医院院長  新居 裕久)

2005.4.23 日経新聞