2月中旬、米国の学術誌に「コーヒーをたくさん飲んでいる人ほど、肝がんになりにくい」というわれわれの論文が掲載され、日米の多くのメディアにとりあげられた。
全国各地の40−69歳の男女約9万人に生活習慣についてアンケートし、コーヒーの摂取量別にその後約10年間の肝がんの発生率を比較した。疫学研究でも結果の信頼性が高いコホート研究とよばれる追跡調査である。

コーヒーをほとんど飲まない人たちに比べ、毎日1杯以上飲む人たちでは肝がんリスクが半分になった。しかも量に応じた減少傾向が明確で、1日5杯以上飲む人たちではさらにリスクが半減した。

コーヒーの肝がん予防効果は動物実験で以前からも指摘されていた。学会発表などでも今回の研究成果のほかに複数のグループが、同じような結果を報告している。コーヒーをたくさん飲んでいる人は、肝がんになりにくいということは間違いないだろう。

ただ、これまでコーヒーを飲まない人が、たくさん飲むように生活習慣を変えたとして肝がんを予防できるかどうかは現段階では保証できない。そのような摂取量の変化をとらえた上での検討が実施されたわけではないからだ。

いったいコーヒーのどの成分がどう作用するのかもよくわからない。ただ、お茶も含めた他の飲料では効果がみられなかったことを考えると、共通するカフェインではない可能性が高い。コーヒーに含まれるクロロゲン酸という物質の抗酸化作用が、肝臓の炎症の憎悪を押さえるという実験結果があるので、この物質が効いているのかもしれない。

日本の肝がんの9割はC型かB型肝炎の持続感染者から発生している。肝炎ウイルスに感染していない人は肝がんにはならないと考えていい。予防の第一歩は、ウイルス検査で自分が肝がんのハイリスクかどうか知ることだ。

われわれの別の研究では、コーヒー大国ブラジルのサンパウロ在住日系一世の肝がん死亡率が日本の半分以下であることもわかっている。
(国立がんセンター予防研究部長  津金 昌一郎)
2005.4.10 日経新聞