骨粗しょう症 予防に効果
ダイエット 実証されず
体を柔らかく ありえない


夏バテの時期を、食欲増進効果のある酢で乗り切るのは、古来の日本の知恵。特にここ数年は、血圧を下げる、コレステロールを減らす、ダイエットに良い――など様々な効用がうたわれ、ちょっとした「酢ブーム」だ。その実力とはどの程度のものなのだろうか。

夏には酢がいいという理由は3つある。まず酢の酸味が食欲を増進させること。酸味が唾液(だえき)の分泌を促し消化吸収もよくなる。

2番目は酢の持つ防腐・静菌作用だ。腸管出血性大腸菌O157やサルモネラ菌、ボツリヌス菌に対する静菌効果も確認され、食塩と併用すると効果はさらに高まる。

3番目は疲労回復効果だ。「酢を摂取すると血液循環が良くなり、酸素が十分行き渡るので、筋肉にたまった乳酸(疲労物質)の分解が進む」と昭和大学保健医療学部の中山貞男教授は話す。

ミネラル効率吸収

一般に酢と呼ばれている食酢は、穀物類や果実類をアルコール発酵させた後に酢酸発酵を加えた液体調味料をさす。主成分は酢酸をはじめとする有機酸だ。酢酸と糖分を運動後に同時に摂取すると不足したグリコーゲンの補充が進むことが、ラットによる実験でわかっている。ミツカングループ本社中央研究所の岸幹也主任は「酢の疲労回復効果を示す一例」とした。

酢の中に卵を漬けると殻が溶けることが示すように、酢酸にはミネラルを溶かし出す効果がある。カルシウム単体だと体内で吸収されにくいが、酢酸カルシウムの形だと吸収されやすくなる。食事の際に酢を積極的にとると、カルシウムやマグネシウム、鉄分など日ごろ不足しがちなミネラルを効率的に摂取できるわけだ。アサリの酒蒸しや骨付き鶏肉、小魚などの調理にも酢を利用するといい。

最近では高血圧症、高脂血症、糖尿病の3大生活習慣病の予防・改善という点でも、酢酸が注目されるようになった。ミツカンが他機関と共同で行った臨床試験では、血圧や血中総コレステロール値が高めの人が15ミリリットルの食酢を毎日飲み続けると、その値が低下することが明らかになっている(試験対象者全員が下がったわけではない)。飲用をやめると元の値に戻ってしまう。特に血圧の場合は戻りが顕著だ。低血圧者には影響がないことも分かった。

もっとも効果をもたらすメカニズムが、すべて解明されているわけではない。また、ちまたでよく言われる酢はダイエットに良いという説は、現段階では科学的に実証できていない。店頭に出回る醸造酢全般の効果については表にまとめた。

醸造酢は、米や麦などを原料とする穀物酢と、リンゴやブドウなど果実を原料にする果実酢に大別できる。米酢は1リットル中に白米40グラム以上を使用したもの。健康志向で人気の米黒酢は、ぬか層を残した米に小麦または大麦を加えたものが原料で、1リットル中に使用する米は180グラム以上、それを発酵・熟成によって褐色または黒褐色にしたものをいう。玄米だけが原料なら純玄米黒酢だ。

メカニズム未解明
黒酢には原料由来のアミノ酸やミネラルが豊富。熟成させると着色しやすい。つぼで発酵・熟成させるので有名な鹿児島の伝統的な製法では、熟成が半年以上に及ぶ。「良い原料で自然条件を生かし、ていねいに作られたものなら、生活習慣病の予防・改善効果が高い」と中山教授はみる。だが、そのメカニズムはよく分かっていない。

酢は種類を問わず、原料由来の天然成分がどれだけ豊富かが決め手のようだ。とはいえ薬ではないから、他の食べ物とのバランスが大切。具体的な目安を示せば、1日15−30ミリリットル(大さじ1−2杯)を目安に摂取することだ。調味料としてではなく飲料として摂取する場合は、5倍に薄めることを忘れずに。


5段階で判定、醸造酢の実力


・メカニズムも含め科学的に実証

・メカニズム解明は不完全だが実証データはある
・メカニズム不明だが実証データはある
・現段階では何とも言えない
・科学的にあり得ない
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食欲を増進させ消化吸収をよくする
防腐、静菌作用で食中毒を予防
疲労回復に効く
料理のときに塩の代わりに使うと、塩の量を減らせる⇒減塩効果
カルシウムなどミネラルの体内吸収を促進する⇒骨粗しょう症の予防

高めの血圧を調整する
高めの血中中性脂肪値を低下させる⇒高脂血症の予防
体を温める働きがある⇒冷え性の人にいい
便通が良くなる

高めの血糖値の上昇を穏やかにする⇒糖尿病予防

細胞内の脂肪代謝を促進する

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硬い体を柔らかくする

(昭和大学の中山貞男教授の話から作成)


2006.7.1 日本経済新聞