効果を実証 安全性確認
国が3段階審査


コンビニや自動販売機でも手軽に買うことができる特定保健用食品(トクホ)。食品はパッケージや広告で健康への効能をうたうことができないが、科学的根拠を示して国の認可を得ることを条件に、表示を例外的に認められた健康食品だ。認定までにはどんなデータや手続きが必要なのか調べてみた。

「血圧が高めの方に」――。サントリーは2月、こんな表示を記したペットボトル入りの飲料「胡麻(ごま)麦茶」を発売した。効能のもとになるのが、ゴマに含まれる「ゴマペプチド」。血圧を下げる効果を見つけた同社はトクホの承認を得るため、まず動物で安全性や有効性を確認。その後、外部の会社に委託して人での検証を開始した。

治験と同じ手法

軽い高血圧症や血圧が高めの男女72人を集め36人ずつに分けて実施した。一方に開発した胡麻麦茶、もう一方には通常の麦茶を1日1本(350ミリリットル)飲み続けてもらい、医師が血圧を測定。3カ月後、胡麻麦茶を飲んだグループでは血圧の上の値が平均10ほど低下する効果が認められた。

実施した試験は「二重盲検」と呼ばれる信頼性の高い手法で薬の臨床試験(治験)にも使われる。思い込みによる効果(プラセホ効果)を排除するため被験者にも医師にも、どちらが本物の胡麻麦茶なのか分からないよう実施する。

トクホの場合、明文化したルールで義務づけているわけではないが、厚生労働省は「信頼性を高めるため二重盲検が望ましい」としている。データは論文として、別の研究者(査読者)が審査する学術雑誌に掲載される必要がある。

こうして有効性が確認されてもまだ認められるには不十分だ。サントリー健康科学研究所の阿部圭一課長は「血圧の高い人が飲み過ぎてしまう可能性があるため、安全性も十分確認している」と話す。摂取目安量の3倍に当たる1日3本(約1リットル)を被験者に1カ月間、飲み続けてもらった。1本の場合と比べて効果が早く表れるという違いはあったが、血圧が急激に下がるなどの副作用はみられなかった。

実験データが集まったら、国に提出し審査を受けなければならない。審査は3段階からなる。まず厚労省の薬事・食品衛生審議会で効能にかかわるデータを、次に内閣府の食品安全委員会で安全性にかかわるデータを審査する。その後、厚労省の審議会に戻り、最終的にトクホとして認可するかどうか決める。

やり直し命令も

審査過程でデータに不足があると判断されると、実験のやり直しを命じられることもある。
味の素ゼネラルフーヅ(AGF)は5日、体脂肪の吸収抑制効果をうたったコーヒー飲料「ブレンディ香るブラック」を発売した。コーヒー豆に含まれる「マンノオリゴ糖」が腸などでの脂肪吸収を抑える働きがあるという。

当初、30人を2グループに分けて3カ月間、このコーヒーと普通のコーヒーを飲み続けてもらった二重盲検を実施。このデータを国に提出したところ、2005年2月に厚労省の審議会で「試験の人数が少なすぎるのではないか」と指摘された。

今度は被験者72人を集め3グループに分けて実施。マンノオリゴ糖の量が異なるコーヒーを各グループに飲み続けてもらい、CTで脂肪の面積が減少しているデータを提出、2006年9月、トクホとして認めてもらった。開発に着手してから2年かかった。

トクホ制度は1991年にスタート、2007年5月21日時点で678品目が認可された。国立健康・栄養研究所の山田和彦プログラムリーダーは「信頼性はきちんと担保されていると考えて良いだろう」と語る。

花粉症への効能をうたったカプセルを飲んだ人が意識不明になるなど、あやしげな健康食品による被害が後を絶たない中、安全な健康食品を見分ける指標としての役割を果たしていることは確かなようだ。

ただ、あくまで食品の一種であり、病気の治療効果まで確認されているわけではない。また、肥満に悩む人が「トクホの油やマヨネーズだから安心」といって摂取量を控えないなど、過信してバランスを崩すと本末転倒だ。

健康維持には1日の摂取量の目安をきちんと守りながら、あくまで補助的に活用していくのがよいだろう。


トクホを使う場合の注意点

過剰摂取は禁物
トクホは1日あたりの目安となる摂取量が表示してある。過剰に摂取した場合、たとえば「おなかの調子を整える」と書かれた製品をとりすぎておなかが緩くなるなどの副作用が起こることがあり、注意が必要。また別々の製品を目安の範囲内で摂取した場合でも、同じ作用を持つ製品の場合、過剰摂取したのと同じことになってしまう
継続が大事
トクホは1カ月近く毎日決められた量を摂取することで効果が引き出されるものが多い
薬との併用に注意
トクホの中には、薬と同じようなメカニズムで効果を発揮する物がある。例えば高血圧薬を服用している人が「血圧が気になる方に」と書かれたトクホを摂取すると、薬の作用が強くなりすぎて副作用が出る可能性がある。普段から薬を使用している人は医師に相談した方がよい
宣伝文句にまどわされない
「体脂肪がつきにくい」「コレステロールが下がる」といってもカロリーに差はない。マヨネーズや食用油を取りすぎると太る原因に
薬の代わりにならず
生活習慣病を予防するのに使うのがトクホ。糖尿病や高血圧症の人たちが病院に行くのが嫌だからと言って薬の代用にしてはいけない





2007.6.17 日本経済新聞