拡張期血圧が低値の慢性CAD患者は予後が悪い

拡張期血圧が低値の慢性CAD患者は予後が悪い
CREDO-Kyotoレジストリーより

 一部の大規模臨床試験で見られた"Jカーブ現象"の理由の1つが示された──。血行再建を行った慢性冠動脈疾患(CAD)患者のうち、入院時の拡張期血圧が低い患者は予後が悪いことが明らかとなった。待機的PCIかCABGを施行された患者を登録、追跡しているCREDO-kyotoレジストリーのサブ解析から明らかになったもので、3月5日から7日まで京都で開催された第74回日本循環器学会総会・学術集会のLate Breaking Clinical Trialsで、久留米大学心臓・血管内科の甲斐久史氏が発表した。

  現在、血圧は低ければ低いほど冠動脈疾患死亡リスクが低下するという”The Lower, the Better”が提唱されている一方で、過度な降圧は逆にイベントリスクを高めてしまう可能性(Jカーブ現象)も示唆されている。2006年に発表された、冠動脈疾患を伴う高血圧患者への降圧治療の有効性を評価するINVEST試験のpost-hoc解析では、拡張期血圧が70mmHg未満程度から全死亡/非致死性心筋梗塞/非致死性脳卒中の発症リスクが有意に上昇するという結果が得られている(Messerli et al. Ann Intern Med,2006;144:884)。

  ただし、拡張期血圧が低い患者には、陳旧性心筋梗塞や心不全による低心機能/低心拍出状態や、収縮期高血圧によって高度な動脈硬化が存在する患者が含まれると考えられ、その場合、降圧の程度に関係なく心血管死や心筋梗塞などのリスクが高いといえる。

  そこで甲斐氏らは、日本人の慢性CAD患者において、拡張期血圧が低いと長期予後が悪化するのか(心筋梗塞発症を増加させるか)を明らかにするため、CREDO-Kyotoレジストリーのデータを解析した。

  CREDO-Kyotoレジストリーは、京都大学をはじめとした30施設における計9877例の待機的PCIあるいはCABGを施行された患者を登録した観察研究。1週間以内に発症した急性心筋梗塞症例は除外している。このレジストリーから、慢性CAD患者7180例を対象に、登録時(入院時)の血圧値に基づいて解析を行った。観察期冠の中央値は3.6年。

  対象者の患者背景は、平均67歳、男性が7割、収縮期血圧は135±21mmHg、拡張期血圧は75±12mmHg。高血圧は7割、降圧薬服用は8割であるため、高血圧ではないが降圧薬を服用している症例が含まれていた。ヘモグロビン値は13.2±1.9mg/dL、eGFRは70.0±29.7mg/min/1.73m2。心筋梗塞既往は19.9%、心不全既往は4.9%、脳血管障害は16.3%だった。糖尿病合併例は38.1%、脂質異常症合併例は52.2%だった。

  拡張期血圧と粗死亡率の関係を解析した結果、拡張期血圧が低下するに従って全死亡、心血管死亡、非心血管死亡の発生率は増加した。非致死性心筋梗塞の発生率は変化がみられなかった。年齢、性で補正したCox比例ハザードモデルでも、全死亡、心血管死亡、非心血管死亡ともに拡張期血圧が下がるに従ってハザード比は上昇したが、非致死性心筋梗塞は低下する傾向にあった。

  そこで対象者を、拡張期血圧70mmHg未満を低DBP群、70mmHg以上を高DBP群として、2群に分け、患者背景を解析した。その結果、低DBP群では、男性比率が低い(67.2%、高DBP群73.9%)、収縮期血圧が低い(123±18mmHg、高DBP群141±19mmHg)、拡張期血圧が低い(61±18mmHg、高DBP群81±9mmHg)、脈圧が高い(62±18mmHg、高DBP群61±16mmHg)、高血圧症例が少ない(62.3%、高DBP群73.2%)、ヘモグロビン値が低い(65.9±29.7mg/dL、高DBP群13.4±1.8mg/dL)、心筋梗塞既往例が多い(23.3%、高DBP群18.4%)、心不全既往例が多い(7.3%、高DBP群3.8%)といった傾向がみられた。合併症を見ると、低DBP群では糖尿病、悪性腫瘍が多く、脂質異常症やメタボリックシンドロームは少なかった。

  多変量解析により低DBP群における心血管死亡予測因子として、eGFR、心不全既往、脳卒中既往、脈圧、左室駆出率40%以下、心筋梗塞既往が見いだされた。一方、非心血管死に関する予測因子としては悪性腫瘍、年齢、Hb値、肝硬変が見いだされた。

  甲斐氏は、血行再建術を施行された慢性CAD患者のうち、入院時の拡張期血圧が70mmHg未満と低い場合、(1)総死亡や心血管死亡が増加したが、心筋梗塞発症は増加しないこと、(2)心血管死亡の予測因子は、腎機能低下、心不全既往、左室収縮能低下、脈圧増大、脳卒中既往、心筋梗塞で、降圧薬の服用や残存冠動脈病変数には影響されなかった――と指摘。

  以上の結果から甲斐氏は「日本人の慢性CAD患者において、拡張期血圧が低いほど全死亡や心血管死亡は増えるというJカーブ現象は確認されたが、その原因は降圧治療による過度な血圧低下ではない」とした。CREDO-Kyotoレジストリーの最大のlimitationは、フォローアップ期間中の血圧コントロールの状態が不明である点であることを前置きしつつ、低心機能、動脈硬化の進行とその合併症の存在などが死亡増の原因である可能性を示唆した。

  また、血行再建術を行ったCAD症例で拡張期血圧が低値であると長期予後が悪い ことから「慎重な経過観察が必要」と注意を促した。



2010.3.9 記事提供:日経メディカル