腰近辺にあるインナーマッスル

鍛えて若さ維持
前屈み防ぎ姿勢維持
足が動き、歩き回るのが楽に

 転倒した際に骨折して寝たきりになる高齢者は多い。腰周辺の筋肉の衰えにより、すり足になることなどが原因のようだ。30、40代から腰周辺の筋肉を健康的に保ち、若さを維持する方法を探った

  「最近、下腹が出てきてお尻も垂れ気味」と、おばさん体形を嘆くのは30代後半のA子さん。40代のB子さんは「階段を一段飛ばしで上がるのがきついし、下りは手すりがないとなんか不安」という。指摘されるのは、腰近辺の体幹部にあるインナーマッスル(深層筋)の衰えだ。
 背骨と両脚太もも付け根をつなぐ大腰筋、骨盤と太ももの付け根をつなぐ腸骨筋は脚を上げる際に使われる重要なインナーマッスル。背骨を支え、骨盤を適正な角度に維持して姿勢を保つ働きもする
 これが衰えると脚が上がらず、すり足になる、歩幅が縮まる、前屈(まえかが)みになる、骨盤がゆがみ腰痛になる、下腹がせり出す。高齢者がちょっとした段差で転倒しやすくなるのは、こういった筋力が衰えるからだ。
 スポーツ医学に詳しい筑波大学大学院准教授の久野譜也さんは、大腰筋を家の大黒柱に例える。「背骨や腹筋で周りをいくら固めても、上半身と下半身をつなぐ真ん中の大黒柱がしっかりしていなければ、建物同様、体がぐらつく」。その大黒柱、実は決して太くないし、20代をピークに40代で約20%、50代では約30%減り、70代では半減するという。

  大腰筋の実力は立ち座りで測ることができる。足を肩幅くらいに開き、手を横に下ろしたまま、いすに腰掛け立ち上がる。座面におしりをきちんとつけ、立ったときはひざを伸ばす。この動作を10回繰り返すのに要した時間でみる。久野さんによると、40歳未満なら10秒以下、40代なら11秒以下、50代は13秒以下。「これより長くかかったら、大腰筋は実年齢より衰えている」という。
 衰えた筋肉でも、日々の筋トレ次第で老化を食い止められる。「再び太くすることも可能」と久野さんそうすれば年を取っても若い時と同じように元気に歩き回れる。実際に、つくばウエルネスリサーチ(つくば市)の健康運動指導士、最上あおいさんに簡単なトレーニングを実技指導してもらった。

 「少なくともこれを継続すれば」ということであがったのが、スクワットと片ひざ上げ、上体起こしの3種(左図参照)。3種の筋トレをそれぞれ1日2−3セット、週5日以上というのが望ましいが、無理は禁物。「テレビを見ながらでもいい。継続することが何より」(最上さん)
 総合情報サイト「オールアバウト」でエクササイズのガイドを務めるスポーツトレーナーの柴田明さんは、「おしり歩き」をすすめる。床に座って脚を伸ばし、おしりを使って前進・後退する。前進するときは、出すおしりの側の腕を前に振り、後退するときは、引くおしりの側の腕を後ろに振る。「息を吐きながらゆっくりと、前に20歩、後ろに10歩を目標に」と話す。
 サポートグッズも登場している。アシックスが開発した大腰筋強化スパッツだ。脚を引き上げたときに臀(でん)部で大きく変化する部分を押さえ込む構造により、大腰筋に負荷を与えて鍛える。
 大腰筋を意識した筋トレは別な効果も期待できる。骨密度上昇と基礎代謝量の向上だ。ジャンプを繰り返すバレーボール選手は骨が強い。意外なことに肥満者の骨密度も高い。骨は荷重されると強くなるからだ。「筋肉が増えて重さが加われば、骨密度が増す」と久野さんは言う。筋肉が増えれば基礎代謝量も上昇し、太りにくい体質になる。
 最近はダイエットの影響で、20代でも骨が弱く、筋肉の少ない女性が増えている。「将来に備え、筋肉の定期預金が期待できるうちに」と、久野さんは若いうちからの適切な筋トレを推奨する。

自宅でできる大腰筋の簡単なトレーニング方法
スクワット
@足を肩幅に開いて立ち、腕を伸ばして両手を重ねる
A1、2、3と数えながら、ゆっくりひざを曲げる
B4で1秒静止
C5、6、7と数えながら、ゆっくり元へ
Dこれを10回繰り返して1セット

片ひざ上げ
@いすに座り、座面を両手で軽くつかむ
A1、2、3で、右ひざをまげたまま真っ直ぐに上げる
Bいっぱいのところまで上げたら1秒静止
C5、6、7でゆっくり下げる
D同様のことを左足で行い、左右各10回が1セット

上体起こし
@あおむけになり、両ひざを立て、両手を太ももの前面に当てる
A1、2、3で両手をひざの方に滑らせながら、ゆっくりと上体を起こす
B4で1秒静止
C5、6、7でゆっくり元の姿勢に戻す
Dこれを10回繰り返して1セット

(注)筑波大学大学院の久野さん、健康運動指導士の最上さんの話を基に作成

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あお向けに寝て、足で天井の角を回し蹴りする。これを左右10分くらいやる

2007.12.8 記事提供 日経新聞