健康ウオーキング インスリン抵抗性

歩いて機能改善

 インスリン抵抗性はウオーキングの健康効果を考えるときにとても重要な病態だ。
 すい臓から通常量のインスリンが分泌されていても、臓器や細胞で見合った作用が発揮できない状態のことで、代わりにインスリンを過剰に分泌してしまい、高インスリン血症を招くことになる。

  インスリンの最も重要な働きが血糖の調節。インスリン分泌には1日24時間にわたる「基礎分泌」と食後の血糖上昇に伴い瞬時に分泌する「追加分泌」とがある。
 食事をして血糖が上昇するとインスリンを分泌して筋肉を主とする全身の糖の取り込みを促進、血糖を基準値内に調節する。インスリンは細胞膜にある受容体と結合し、様々な酵素反応がまるでドミノ倒しのように連携し活性化して、細胞内にある糖輸送体(GLUT4)を細胞膜へ移行させ糖を取り込む。
 一方、空腹時には血糖が下がり過ぎないようにインスリンの分泌を少なくし、肝臓でグリコーゲンからブドウ糖を生成し血中へ放出して一定の血糖を維持する。
 インスリンの働きは多様で、筋肉では取り込んだブドウ糖のグリコーゲンへの合成を促進しエネルギー源として蓄え必要なときに利用する。たんぱく質の合成も促す。肝臓ではブドウ糖の放出を抑制してグリコーゲンを合成促進する。脂肪組織では血糖を取り込みエネルギー源として利用する。また、脂肪の分解を抑制して合成も促進する。
 ナトリウムや体液量の調節、細胞の増殖作用、交感神経系の活性や酸化ストレスの発生にも関与している。

  ウオーキングをやると、運動筋でのインスリンを介する酵素反応が活性化、GLUT4が増え、ミトコンドリアの大きさと密度の増加でインスリン抵抗性が改善、糖の取り込みを促進してくれる。さらに筋肉は収縮するとインスリンとは別の経路でGLUT4の移行を促し、糖を取り込む。
 両方の仕組みによって、血糖は調節され、インスリンの過剰分泌も改善、高インスリン血症の病態(高血圧や脂質異常)もよくなる。

(日本ウオーキング協会副会長  泉 嗣彦)


2007.11.11 記事提供  日経新聞