ストレス対処 上手に

まず心身の緊張ほぐす
元気度確認や「ちょっと寝」

 仕事や人づきあいのなかで、ためこみがちなストレス。緊張した状態が続くと心身の不調を招き、病気につながる場合もあるだけに上手な対処が欠かせない。手軽に取り組める対処法をまとめた。

 「ストレスが多くて眠れない」など、ストレスという言葉は悪いイメージがつきもの。だが、京都文教大学大学教授で神田東クリニック(東京・千代田)の院長、島悟さんは「ストレス自体は悪いものではない」と指摘する。
 なぜ悪いものではないのか。それを理解するうえで、まずはストレスとはどんなものか、知る必要がある。
 東京大学大学院医学系研究科准教授(ストレス防御・心身医学)の熊野宏昭さんは、「日常生活では引越しや転勤など様々な変化が起き、それに対応していくことが必要になる。ストレスとは、心身が新しい環境に適応しようとする結果、生まれる緊張状態を指す」と説明する。
 その際の適応の仕方次第では、自分にプラスをもたらすこともあり、「ストレスは人の成長と関係している」(熊野さん)。だから悪者と片付けきれないわけだ。
 
  それでも上手な対処は欠かせない。ストレスがかかった心身の状況は、手で押すなどしてへこませたゴムボールにたとえられることが多い。手を離せばボールが元の形に戻るように、ストレスがなくなれば心身も普通の状態に戻る。だが、慢性的にためこむと、「免疫力が低下し風をひきやすくなったり、さらに進むと本格的な体や心の病気になったりする危険性もある」(熊野さん)からだ。
 そこで熊野さんはストレスによる心身の緊張をほぐす方法の1つとしてリラクセーションを勧める。図の方法で「緩んだ」という感覚を味わうのが習得のコツ。単なる休息とは違い、「ストレスの対極にある心や体の状態を自ら作り出す」(熊野さん)のがカギ。ゴムボールを元に戻し、へこみにくい状態にする。
 1回でも一定の効果は得られるが、「ストレスに一過性のものと慢性のものがあるように、リラクセーションも続けないと一過性に終わり、効果は数時間で失われる」と熊野さん。この方法は、「日々繰り返せば体がその良い状態を覚える」ため、日ごろストレス耐性を高めることにも役立つという。そこで毎日続けて「リラックス貯金」をするよう助言する。

  心の状態は自分で気付かないこともある。弱っている際に一段と負担をかけないことも大事だ。そこで「心の元気度チェック」を提案するのは冒頭の島さんと「ストレスマネジメント入門」の共著がある同クリニックの精神保健福祉士、佐藤恵美さん。
 やり方は簡単だ。まず、車のガソリンタンクのような心のエネルギータンクを想像し、満タンが10なら、今の状況はどのくらいか数字を思い浮かべる。物事への意欲や心身の軽さから、直感で「4」など数値化するのがコツ。「数値が下がったら疲れやストレスのサイン。仕事を早めに切り上げるなど工夫したい」(佐藤さん)
 心身が疲れ切ってはストレス対処もままならない。「睡眠でエネルギー補給するのが一番」だが、睡眠時間を増やせない人に佐藤さんは「ちょっと寝」をすすめる。耳栓やアイマスクを使い、昼間に15−30分寝る方法だ。脳を休ませる点で効果的という。
  
  もう1つ。抱えなくていいストレスを生じさせないうえで実践したいのが、「認知的ストレス対処法」だ。これは、「自分の考え方のクセに気づき、その背後にあるいやな感情に飲み込まれないようする」(佐藤さん)もの。
「考え方のクセ」とは、例えば「ゼロか百か思考」。その典型例は「プレゼンが順調にすすみ、最後の質疑で1つだけ答えに失敗した」といった際に、「あのプレゼンは全部ダメ」と思ってしまうような考え方だ。ほかに何でも「〜すべきだ」と考える「べき思考」、「いつも怒られてばかり」など「いつも」と広げてしまう考え方などがある。
 こうした自分を追い込む「考え方のクセ」に気付いたら「『これは様々な考え方の1つ』と保留し、ほかの考え方はないか見渡すといい。繰り返せば別の考え方が身につき解消される」と佐藤さんは話す。

リラクセーションの仕方
注意点など
・1回5〜10分で1日に1、2回
・うまくやろうと力まず気楽に
・途中で「あの仕事を片付けなければ」など雑念が浮かんだら、「今は練習中だから、これはちょっと置いておいて…」など心の中でつぶやいて横に置いておく
・雑念についてその場で考え続けたり、強く打ち消したりしない

○力を抜いて楽にイスによりかかり両手を太ももの上に置き、手の平に伝わる温かさに注意を向ける
「気持ちが落ち着いていて手の平が温かいなぁ」
○今度はひじまで
「気持ちが落ち着いていてひじまで温かいなぁ」
○次に両肩までの温かさに注意を向ける
「気持ちが落ち着いていて肩まで温かいなぁ」
○足湯をイメージし足も同様に
○最後は伸びなどで適度な「張り」を回復し日常生活に戻る
(注)熊野准教授の話により作成


2007.10.13 記事提供  日経新聞