太極拳 ゆっくり鍛える

腹式呼吸が基本
足腰強化に効能

 ゆっくりとした動きで心身を鍛える太極拳は中国の伝統的な健康法だ。手足を大きく曲げ伸ばしし腹式呼吸が基本の動作は肺など呼吸器官を鍛えるのに役立つ。足腰を強化する効能もあり、高齢者の転倒予防にもなる。

 大泉北区民館(東京・練馬)には毎週日曜日の午前中になると、近くに住む中高年の男女二十数人が太極拳教室にやってくる。音楽に合わせポーズをとりながら、手足を曲げ伸ばししたり片足立ちになってバランスをとったりする。6分10秒の曲が終わると、窓を開け放ち冬の冷気が入り込む教室にもかかわらず、じっとり汗ばむほどだ。
 16年間続けているという林久雄さん(69)は「風邪をひかなくなった」と汗をぬぐった。定年後の趣味として取り組む中村正志さん(77)は「腕や肩の調子が良くなった・今でもテニスを週2回楽しむことができる」と胸を張る。腰の具合が悪かった中村広子さん(54)も「太極拳ならなんなく続けられる」と笑顔で答えてくれた。

  太極拳は17世紀の中国、明の時代に中国哲学の陰陽思想をもとに登場した。1956年、武術家の李天驥(りてんき)氏が中心となり「簡化二十四式太極拳」を作り、中国の国民的健康法になった。
 簡化二十四式はたくさんあった動きを第一式から第二十四式まで簡素化し、一連の動作として実践する。日本で学ぶことができる太極拳には様々な流派があるが、簡化二十四式をベースにしているところが多い。

短時間で発汗
 太極拳の動きはゆっくりだが、手足や胴体など全身を前後左右上下に大きく動かす有酸素運動だ。しかも中腰状態で動かすため運動量はきわめて多い。血行や新陳代謝が活発になり、短時間でも汗が出てくる。
 「太極拳で大切な点は動きだけでなくきちんと呼吸法を身につけること」と早稲田大学エクステンションセンターで太極拳を教える竹内彰一講師は語る。呼吸は腹式で、手足を引き寄せたり体を伸ばしたりするときは腹を出しながら吸い、逆の時には腹を引っ込めて吐くのが基本となる。腹式呼吸の酸素摂取量は通常の呼吸の3−5倍、脳に酸素が行き渡って心を落ち着かせる効果がある。肺機能の強化にもなり、ちょっとした運動では息切れしにくくなる。
 日本医科大学呼吸ケアクリニックの木田厚瑞所長は「手足を大きく動かすことで横隔膜が鍛えられる」と解説する。肺の機能は25−30歳がピークで、それ以降は年とともに低下していく。
高齢者の場合はよりゆっくりした動作で回数を多めにやるようにする。「脈拍数が1分間110回以下になるような負荷がちょうどよい」(木田所長)

 中高年になると足腰の機能やバランス感覚の低下にも悩む。転倒による骨折は要介護原因の第2位でもある。
 太極拳を応用した転倒予防体操を開発した東京大学の武藤芳照教授は「太極拳を継続的にやると下肢筋の筋力と柔軟性の向上、バランス感覚の向上などの様々な効果がある」と説明する。
九州大学病院のグループが中高年の女性20人に週1回ペースで3カ月間太極拳をやってもらい運動能力を測定したところ、バランス能力や歩行速度、足の筋力が向上した。中腰や片足立ちの動作が改善効果につながっている。

転倒の予防も
 太極拳は動作がゆっくりなため、運動中に転倒・骨折の危険も少ない。足腰が弱った人でも、腰の位置を深く沈めずにやれば、自分の調子に合わせて負荷を軽くすることもできる。ただ、痛い部分や動かない部分を無理に動かすのはよくない。
 十分な効果を得るには正しい型や呼吸法をマスターしたい。指導者について太極拳の基本を学ぶことが大切だ。カルチャーセンターやフィットネスクラブ、自治体の健康教室で教わることができるので、参加してみるのが上達の早道だ。         
(合田義孝)

太極拳の効能
・血行を促進し、血圧を安定させる
・肺機能を強化する
・胃腸など内臓を強化する
・肩こりや腰痛の防止と改善
・足腰など骨格、関節を鍛える
・自律神経のバランスを保ち、精神を安定にする
・運動能力の向上

ひとくちガイド
《本》
◆太極拳について学ぶなら
『健康太極拳−レッスンDVDつき』(楊慧著、成美堂出版)
《インターネット》
◆太極拳の教室を調べるなら
NPO法人日本健康太極拳協会
http://www.taijiquan.or.jp/
日本武術太極拳連盟
http://www.jwtf.or.jp/

2007.1.14 記事提供  日経新聞