女性のメタボリック症候群


日本の基準、実はゆるめ?
宴席の食べ過ぎ 前後3日で調整

 中高年男性に多いとして今年話題になったメタボリック症候群は、実は女性こそ気にかけるべきだ、との声が専門家から出ている。厚生労働省の定めた基準では女性向けとして緩すぎるのだとか。忘年会シーズン到来で冬太りが気になるこの時期、女性はどう予防すればいいのだろう。

 メタボリック症候群が問題視されるのは、体内に内臓脂肪が増えると糖尿病や脳梗塞(こうそく)、心筋梗塞などを防ぐホルモン「アディポネクチン」が減るからだ。1999年に世界保健機関(WHO)が診断基準を公表。その後、国際的に研究が進み、2005年に日本内科学会など8学会が「メタボリック症候群」の診断基準を出した。
 それによると、へそ周りのサイズが女性は90センチ以上とある。90センチという数字の大きさに安心しがちだが、この基準への異論が日本の専門家からあがっているのだ。糖尿病治療や肥満対策に詳しい岡部クリニック(東京・銀座)院長の岡部正医師は「アジア女性向けの基準は80センチ、米国女性の基準でも88センチ。日本女性に90センチは緩すぎる」と指摘する。

 岡部医師が受診女性300人を調べた所、78センチから80センチを境にアディポネクチンが減り始めることがわかった。国内の他の調査でも、大体80センチが目安になることで一致している。
 岡部医師は「日本人女性が内臓脂肪型肥満を意識すべき目安は、80センチとしたほうがいい。ただし身長による個人差があるので、18歳の時の体重と比べて現在、どのくらい増えたかを目安にするのがいい」と言う。アディポネクチンの分泌量で判断すると身体の成長がほぼ止まる18歳を基準に体重が5キログラム増えた人は危険域、10キログラム増えたなら確実に内臓脂肪症候群の疑いがあるとわかった。
 女性の場合、気をつけた方がいいのは35歳を過ぎたころから。「女性は若いうちは内臓脂肪より皮下脂肪が先に付くが、35歳くらいから内臓脂肪が付きやすくなる」と岡部医師。

 では忘年会シーズンに、内臓脂肪太りを避けるにはどうすればよいのか。
 女子栄養大学栄養クリニックの蒲池桂子講師は「手帳で宴会の日程を見て、食事スケジュールを立ててほしい」と話す。宴会の前日、翌日は和食を中心に摂取カロリーを少なくするなど、食べ過ぎ・飲み過ぎに陥らないようにする。何を食べるかの工夫も必要だ。冬は血行不良になり基礎代謝が低下しがち。「代謝を上げるには、糖質をエネルギーに変える働きのあるビタミンB1、脂質をエネルギーに変えるビタミンB2を多く含む食品をとるといい」という。
 玄米や胚芽(はいが)米にはビタミンB1が多く含まれるので、白米から変えることで摂取量が増える。そばや大豆、豚肉にも多い。「ねぎやにんにくの香り成分、アリシンを一緒にとると吸収率が高まるので薬味などにして添えると効果的」(蒲池講師)。ビタミンB2は牛乳やチーズ、卵、いわしやさばなどの青魚、納豆や緑黄色野菜に多い。
 「宴席で料理を食べる場合でも、これらの食品をなるべく選ぶといい。食べ過ぎたと思ったら、タクシーを使わず歩いて帰る、寝る前に腹筋運動をするなど工夫してほしい」と蒲池講師は言う。

 内臓脂肪は皮下脂肪より付くのも早いが、落ちるのも先。
 「やせれば最初の2、3キロで落ちるのはすべて内臓脂肪と考えていい。体調が違ってくるはず」と岡部医師。忘年会、クリスマス、正月とイベント続き。楽しい席で食べる量を減らそうとしてストレスがたまるのはよくないが、頭の隅にメタボリック症候群対策を置いておくことは必要だろう。 
(ライター  長田 美穂)

日本のメタボリック症候群の診断基準
(1)ウエスト 女性90センチ以上 男性85センチ以上
(2)血圧 最高血圧が130以上かつ、あるいは最低血圧が85以上
(3)血中脂質 中性脂肪が血液1デシリットル中に150ミリグラム、かつ、あるいは善玉コレステロール(HDL)が同40ミリグラム未満
(4)血糖値 空腹時血糖値が1デシリットル中に110ミリグラム以上
(1)に加え(2)−(4)が2項目以上当てはまれば疑いあり

岡部医師のあげる日本女性向け判断基準
・18歳の体重と比べてどれだけ増えたか
・体重 5キログラム以上→危険域
    10キログラム以上→確実に疑いあり
(男性は同じ基準で20歳の体重と比較)

蒲池桂子講師による冬太りを防ぐ食事・生活対策
(1)糖をエネルギーに変えるビタミンB1を多くとる
・ご飯を白米から玄米や胚芽米に変える
・白いパンより全粒粉パン、うどんよりそばに
・吸収率を高めるアリシンを含むねぎ、にんにくを一緒に
(2)脂質を燃焼させるビタミンB2を多くとる
・動物性食品なら牛・豚・鶏レバー、さばなどの青魚、うなぎ、鶏卵を
・納豆、緑黄色野菜も毎日とる
(3)血行を改善する工夫をする
・とうがらし、にんにく、ネギ、しょうがを意識的にとる
・手足を冷やさない服装をする。帽子、手袋、靴下は汗をかいても冷えないウール製に




2006.12.2 記事提供 日経新聞