血管年齢 把握し病気を予防

高いと心筋梗塞などのリスク
「生活改善」への指標に

 最近の健康づくりのキーワードのひとつが「年齢」だ。肌年齢、骨年齢など、様々な年齢表現があるが、最も注目度が高いのが血管年齢。血管は全身に広がるだけに「老けている」といわれればショックだ。しかし、最近の臨床研究は、年齢測定は生活習慣病を改善し心筋梗塞や脳梗塞を予防する有力な方法だと考えられている。

 「血管年齢とは、ひとことでいえば血管の硬さを示す数字」というのは、血管年齢の提唱者として知られる東京医科大学八王子医療センター循環器内科の高沢謙二教授だ。人の血管は、年齢とともにその内壁にコレステロールなどがたまって硬く厚くなる。これがいわゆる動脈硬化で、年をとれば誰にでも起こる。ただ、高カロリー、高脂肪の欧米型の食事を続けていたり、運動不足だったりする人では血液中の血糖値や脂肪の量が増え、若いうちから急速に動脈硬化が進む。
 放置すると、血管内部が狭くなり、狭心症、心筋梗塞、脳卒中など命にかかわる病気を発症することになる。

 そうした危険性がどの程度高まっているかを数字で示すのが血管年齢だ。測定法はいくつかあるが簡便な方法のひとつが「加速度脈波検査」だ。加速度脈波とは心臓が血液を送り出すときの「ドキン」という拍動の波の形で表したもので検査装置に指先を入れるだけで調べることができる。
 測定した血管年齢が実年齢より10歳以上高い場合は要注意だ。「健康診断の結果ではメタボリックシンドロームの要件を満たしていなくても、血管年齢が高い人もいる。そういう人では心筋梗塞などのリスクが高まることが分かってきた」(高沢教授)

 血管年齢を私たちのふだんの健康管理に生かすにはどうしたらいいのだろうか。年齢が高くでると悲観してしまう人も多いというが心配しすぎは無用。「かつては、動脈硬化は回復することがないと考えられてきたが、最近では何歳になっても改善する余地があることが分かってきた」(高沢教授)からだ。
 血管年齢が高かった人は、まず精密検査で動脈硬化の原因を探る。病気が見つかった人では高脂血症や高血圧の治療薬が有効な場合もあるが、軽度の人なら生活習慣の改善で血管年齢を若返らせることができるという。
基本は、下記「5カ条」を守ること。食事や運動習慣の改善が大切なのはもちろんだが、睡眠を十分にとることやストレス解消も重要だ。「血管は、精神的な緊張や疲労が続くと縮んで硬くなる。これを機能的硬化といい心筋梗塞などを引き起こす原因になるほか、動脈硬化の促進要因にもなる」と高沢教授

 最近では、血管年齢を日常的な健康管理に利用する動きもでてきた。企業の定期健康診断に採用するケースも増えてきたが、東京都あきる野市の池谷医院では、数年前から生活習慣病が疑われるほとんどの患者に血管年齢の測定を行い効果を上げている。「簡単な検査で、動脈硬化性の病気を早期発見できるほか、患者さんにとっては具体的な年齢を示すことで生活改善のモチベーションを高めることができる」と院長の池谷敏郎さんはいう。
測定結果はストレスなどの影響も出るため、値にはバラツキがあるが、定期的に測定することで改善を実感。「目に見える成果が出るから生活改善を続けることができる」と池谷さんはいう。
 いま専門医たちは、40歳を過ぎたら年に1回程度測定することをすすめている。血管年齢の測定は高血圧や動脈硬化の治療に積極的な内科の開業医などで導入が進んでいる。近くの開業医で見つからない場合は、地域の主要病院の循環器内科を訪ねれば測定することが可能だ。
気軽に全身の状態を知ることができる血管年齢の測定を、日ごろの健康管理に利用してみてはどうだろうか。                   
(ライター  荒川 直樹)

血管年齢の測定とは
年齢とともに血管のなかを伝わる波の形(脈波)が変わってくる
しなやかで内壁もつるつる→全体に硬く内壁には脂肪が沈着している
波にはa〜eまで5つのピークがあるが、これまでの疫学調査により年齢とともにbとdを結ぶ線が下がってくることが分かってきた。その角度を調べることで各人のおおよその血管年齢を算出することができる

血管年齢を若返らせる5カ条
食事
腹八分目を心がけよう。まず野菜から手をつける「野菜優先」の食事なら無理なくカロリーを減らすことができる
運動
定期的に運動する習慣を。何もスポーツをしていない人なら、週2回、20分のウオーキングがお勧め
休息
十分な睡眠を。眠っている間は血管が広がるので、血管のストレスを解消。風呂などで体を温めるのも血管の健康にいい
禁煙
喫煙は全身の血管を縮め、血管の老化を早めるほか、動脈硬化性疾患のリスクを高める
ストレス回避
精神的緊張が続くと血管を縮めて硬くする。上手なリラックス方法を身につけよう
(注)高沢教授の話を基に作成

 




2008.1.5 記事提供 日経新聞社