就寝中こそ風邪予防

ぬれマスク付け乾燥対策
首にタオル巻き温かく

 朝起きたら喉(のど)が痛い、という経験をした人は少なくないだろう。風邪が流行するこの季節、無防備になりがちな就寝中こそ要注意だ。夜、眠るときに手軽にできる風邪予防策を専門家に聞いた。

 埼玉県に住む40代の田中恵子さん(仮名)は、5年前から水分を含ませたマスクをして眠っている。口で呼吸しがちなため、よく喉を痛めたが、マスクで口を覆うと鼻呼吸ができるようになった。「風邪をひきにくくなったのはぬれマスクのおかげ。朝起きたときの気分がよくなった」と語る。
田中さんにぬれマスクを指南したのは、埼玉県で歯科医院を開業する臼田篤伸さん。「ぬれマスク先生の免疫革命」の著書で、25年前から風邪の研究に取り組む臼田さんは「朝風邪を自覚する人が多い」ことに着目した。
 約700人を対象に臼田さんが独自にアンケート調査したところ、風邪の最初の症状に気付く時間帯は起床時が47.5%。昼間(14%)、夕方から夜(29.5%)との差は大きい。「眠っているとき、人はモノを飲み込む動きをしないから喉が乾燥しやすい。睡眠中の予防策が大事」

 ぬれマスクに期待するのはウイルスの侵入阻止というよりは、喉や鼻の奥の乾燥防止にある。自身もぬれマスクをして眠る臼田さんのやり方はこうだ。
 マスクの上方3分の1を水でぬらし、その部分を外側に折って鼻にかからないようにする。「マスクからの湿った空気で鼻の粘膜が潤う。(マスクで覆う)口付近には水蒸気がたまって乾燥しにくくなる」
 鼻の粘膜や鼻毛には吸った空気を加湿したり、異物を除去したりする機能があるが、口は違う。無防備な口呼吸は喉の乾燥を招き「マスクの利点は口呼吸の人でも鼻呼吸ができるようになること」と臼田さん。ちなみにいびきは口呼吸の人に多いという。
 横浜薬科大学客員教授で「やさしくわかる東洋医学」の著書である根本幸夫さんもぬれマスクの効用を説く。「風邪のウイルスは、潤っている喉には付着できずに流される。喉の乾燥を防ぐだけで免疫力は3倍アップする」

 根本さんが提唱する、もう1つのワザがタオルを首に巻いて眠ること。狙いの1つは冷え予防。「人間の体は乾燥と冷えに弱い。冷えは首や背中の後ろから襲ってくる。タオルはそこを守る意味がある」。もう1つの効用は喉の乾燥の防止だ。「首から水分が逃げることで喉が乾燥する。タオルを巻けばそれを減らせる」というわけだ。

 寝床の温度に注意点はあるのだろうか。
「必ず、体を温かくして寝て」と強調するのは新潟大学大学院教授で免疫学者の安保徹さんだ。
安保さんの研究によると、風邪ウイルス撃退の中心的な役割を担っているのは、白血球内のリンパ球で、リンパ球は体が温かいときに働くという。「薄着するだけで風邪をひくこともあるでしょう。それはリンパ球が働かなかったからです」。体感温度には個人差がある。「低体温の人は湯たんぽをするのもいい体がほてる人はそこまでする必要はありません」

 ウイルスに反応してリンパ球が活性化しすぎても、重い風邪を引き起こす。「例えば、子どもはリンパ球が多い体質。子どもが高熱の風邪をひく原因はリンパ球過剰にある」と安保さん。リンパ球は少なすぎても多すぎても風邪の原因になるわけで 、働きを正常にするには、夜はぐっすり眠るなど、規則正しい生活をすることが大切だという。

部屋の湿度はどうだろう。1985年に米国暖房冷凍空調学会に発表された論文によると、人の健康に最適な室内湿度は40−60%という。
60%を超えるとダニやカビが活発になり、40%以下ならウイルスが活動的になるからだ。ウイルスは湿度が下がるほど活発になるので、ぬれたタオルを部屋に掛けるなどの加湿対策も有効だろう。

「ぬれマスク」こう作ろう
@ガーゼマスクの上方3分の1を外側に折る
(鼻を外に出して呼吸しやすくするため。折ることでマスクも安定する)
A折った部分を水道で軽くぬらしてしぼる
(口付近はぬらす必要はない。ひもがぬれないように注意)
B鼻にかけず、口を覆う形でマスクをする
(口がどうしても苦しい時は下唇にかけるだけでも湿気を補う効果はある)
(注)臼田さんの話をもとに作成

寝るとき風邪予防にこんな工夫も
・首にタオルを巻いて寝る
(首の冷えと乾燥を防ぐ。タオルは結ぶと苦しいので輪ゴムで留める)
・寝床にお茶など飲み物を用意
(起きたときに飲んでのどを潤し、ウイルスが付着する機会を減らす)
・寝る前にしじみやあさり汁などでカルシウム分を補給する
(カルシウムは眠気を誘う効果あり)
・冷えは大敵。寝床は温かく
(体温が下がると、体の免疫力は落ちる)
(注)根本さん、安保さん、臼田さんの話をもとに作成



2008.1.12 記事提供  日経新聞