携帯使いすぎ 手や目に負担

「早打ち」で腱鞘炎に
疲れ目防ぐ配慮も大切

国内の携帯電話の契約台数が2007年、初めて1億台を超えた。確かに便利な存在だが、使いすぎると手や目に負担がかかる。ひどい場合は、手の手術を受けなければならない可能性さえある。携帯電話の特徴を知り、上手なつきあいを心がけたい。

「手が痛くて仕事ができません。何とかしてください」。東京都在住の20代のA子さんは病院に駆け込んだ。手首の内側が大きく腫れ上がって痛む。手首の重度の腱鞘(けんしょう)炎と診断され、すぐに手術を受けることになった。

A子さんは1日に長文のメールを30−40通送る携帯電話の“ヘビーユーザー”。携帯のボタン操作で手を酷使していたことが腱鞘炎につながった可能性が高かった。

腱鞘炎に詳しい東邦大学医療センター大橋病院の戸部正博准教授によると、腱鞘炎はもともと妊娠中や出産直後、更年期の女性に多かった。女性ホルモンの分泌が変わり、腱が肥大するなどの体の変化が起きるためだ。しかし「最近は若い女性や男性の患者が増えたきた」。ほとんどの場合、携帯電話やパソコンの使いすぎが原因とみられる。

海外でも携帯で手を痛める人は増えている。英国の携帯電話会社ヴァージン・モバイルは06年、同国内で380万人が携帯電話の使いすぎによる手首や親指の痛みに苦しんでいるとの調査結果を発表している。

戸部准教授によると、携帯電話のボタン操作は、手や指の関節に負担がかかりやすい姿勢だ。手首を体側に折り曲げたうえ、親指の第一、第二関節を曲げながらボタンを押す。両手の五指を使うキーボードより使う部位が少なく負担が集中する。

特に、ボタンを高速で何度も押す「早打ち」は、負担が大きいので注意が必要だ。妊娠中や、更年期の女性は特に、長時間の携帯操作に気をつけよう。

親指の場合、手の甲側の指の第1、第2関節の間が痛んだら黄信号。初期症状だ。初期なら患部にステロイド剤を注射することで9割治るが、悪化すると手術を受ける必要がある」と戸部准教授は早めの受診をすすめる。

携帯電話の使いすぎは目への影響も大きい。小さい液晶画面に細かい文字。手に持って操作するため、目からの距離も近くなりがちだ。パソコンも同じ液晶画面だが、日本眼科医会常任理事の種田芳郎さんは「患者の声を聞くと、負担はパソコンより携帯電話の方が大きい」と話す。ピントの調節の役目を果たす毛様体筋が疲労しやすいため、眼精疲労や近視になりやすい。

できるだけ目にやさしい携帯の使い方を心がけよう。基本は背筋を伸ばして目から最低30センチは離すこと、暗いところで操作すると、より集中して画面を見ようとするため疲労度が増す。なるべく明るいところで使うといい。

電車や歩きながらの携帯操作も良くない。画面や自分の頭が揺れるため、目が疲れやすい。「電車の中でメールを打つときは、せめて座ってからにしてほしい」と種田常任理事。他人に画面をのぞき見されないように張るフィルターにも注意が必要。画面が暗くなりすぎる場合は、画面の明るさを調節しよう。

一方、近くを見つめていると眉間(みけん)のあたりが重く感じる人は、携帯以外に要因がないか注意すべきだ。コンタクトレンズや眼鏡の度が強すぎる「過矯正」の可能性がある。その上体で携帯電話を長く使うと、さらに近視が進む。眼科で視力検査をし、適正な度数に変えよう。

携帯機器向け地上デジタル放送の「ワンセグ」やインターネット接続など、携帯電話を見つめる機会は年々増えている。近視の進行は20代で止まることが多いが「最近は30−40歳代になっても近視が進む人が出てきた」と種田常任理事は警告する。

携帯の機種選びや、機能を十分に生かすことで体への負担を減らすこともある。NTTドコモ広報部は「文字が見えにくければ大きな文字に設定してほしい。押しやすいようボタンを大きくした機種もある」と話す。便利さだけでなく、体への気配りも“携帯”したい。

携帯電話と上手に付き合うコツ

腱鞘炎にならないために
・メールの早打ちは控えめにする
・妊娠中や出産直後、更年期の女性は、特に注意する  ホルモンの関係で、腱鞘炎になりやすい
・痛みを感じたら、早めに受診する  親指の場合、手の甲側にある指の第1、2関節の間がまず痛くなる。手首の場合は親指側の側面が痛む

疲れ目にならないために
・背筋を伸ばして、目から30センチ以上離す
・暗いところでは長時間使用しない
・移動中は携帯の画面を長時間見ない  電車の中や、車の助手席、歩行中など
・のぞき見防止フィルターを張る場合は画面が暗くなりすぎないようにする
・必要に応じて、自分の視力を確認する  近くを見つめると眉間が重く感じる場合は、コンタクトや眼鏡が「過矯正」になっている可能性がある
(戸部さん、種田さんの話をもとに作成)

 


2008.4.5提供 日経新聞