栄養控えすぎると心の病に

「太りたくないからと脂肪分を控えすぎると、脳神経の新生が鈍り心の病につながる可能性があります」

 うつ病などの人は、脳神経が順調に作り出されなくなっているとされる。東北大学大学院の大隅典子教授は脳神経の新生で重要な役割をする遺伝子を突き止め、それが栄養の輸送を担うことを明らかにした。遺伝子に異常がある場合だけでなく、メタボリック症候群を避けるため肉を食べず栄養不足になったりすると、心の病に陥る危険も高まるとみている。

「脳神経細胞は大人でも日々新たに作られており、これを神経新生と呼びます。神経新生と遺伝子の働き、統合失調症などの関連を調べ、栄養を控えすぎると、うつ病や統合失調症だけでなく認知症にもつながりそうだとわかってきました。予防・治療薬の開発に役立つかもしれません」

――心の病にかかわる遺伝子とは。

「ラットを使った研究で、PAX6と呼ばれる対になった遺伝子の片方が傷つくと攻撃的でけんかっ早くなったりうつ病になったりすることを見出しました。両方傷ついていると死んでしまいます。ヒトにもPAX6はあり、視覚異常との関係は指摘されていたものの、心の病と原因とは見られていませんでした」

「詳しく調べると、PAX6自体よりも、これが働くようスイッチを入れる役割をする転写抑制遺伝子Fabp7の働きを奪ったラットは統合失調症とみられる行動を示します」

――ラットのうつ病や統合失調症はどのように判断するのですか。

「代表的なのはプレパルス抑制と呼ばれる手法。バンッと大きな音を立てるとラットは驚きますが、2回目はあまり驚きません。驚き方が減らない場合、統合失調症の一種とみなします。ラットに強制的に水泳をさせ、あきらめるまでの時間が短いとうつ病とみなす方法もあります」

――遺伝子と栄養との関係は。

「Fabp7には脂肪酸を神経細胞に運ぶ役割があり、細胞の増殖をもたらします。この遺伝子の働きがゼロではないものの統合失調症の反応を示すラットに、肉に多く含まれる不飽和脂肪酸の一種、アラキドン酸を与えると症状は回復します。神経新生は年齢とともに低下しますが、脂肪が不足するとそれが加速して神経疾患も増えると考えられます。やせ願望の女性などは要注意です」 
  (編集委員  安藤淳)



2008.3.23 提供 日経新聞