女性ホルモンが大きくメタボにも関与

閉経に伴う心血管系(CV)リスクの急上昇は、ホルモンが関与するメタボリックシンドロームに強く関係している
女性におけるメタボリックシンドロームの有病率は、閉経期への移行とともに上昇する
Steve Stiles

【7月29日】女性のメタボリックシンドロームの有病率は、閉経期への移行とともに上昇するが、その理由はおそらく「体内ホルモン環境のテストステロン優位性の進行」であって、エストロゲンレベルの低下そのものではないという結果が、縦断研究である「全国女性健康調査(Study of Women's Health Across the Nation (SWAN)」で出た。[1]

ホルモンの状態変化が心血管系(CV)リスク因子群に及ぼすこの影響は、今回の分析では年齢および肥満指数とは独立しており、女性が閉経期に心疾患のリスクが増大することの背景にあるメカニズムのひとつである可能性がある、と研究グループは『Archives of Internal Medicine』2008年7月28日号で結論づけている。

この報告では、メタボリックシンドロームの5項目のうち3項目(腹囲増加、トリグリセリド値、高比重リポ蛋白(HDL)コレステロールの減少)に対して「テストステロン優位」が有意かつ独立して関連していた。閉経開始は、収縮期血圧や血糖値には影響しないようであった。

SWANは、「米国の7か所で登録した3,302名の女性を対象とする閉経への移行の自然経過に関する多民族地域住民対象多施設縦断コホート研究である」と、Dr Imke Janssen(ラッシュ大学医療センター、イリノイ州シカゴ)を筆頭とする著者グループが記している。対象者のうち、自然に閉経に達してホルモン療法は受けず、調査開始時に糖尿病・メタボリックシンドロームのいずれでもなかった者は949名いた。メタボリックシンドロームの発生の定義は、慣習に従って、リスク因子5項目のうち3項目以上が揃うこととした。

さらに、「(メタボリックシンドロームの発生に対する)ホルモン状態変化の影響は、民族・人種グループが異なっても同じであった」とJanssen博士はHeartwireに語った。それによれば、「対象者を調べたその他の研究のほとんどは規模が小さく、白人女性に限定したものであった。SWAN分析は、白人がおよそ半分、アフリカ系アメリカ人がおよそ4分の1、日本人が12%、中国人が11%、ヒスパニック系が5%で構成されている。」

このコホートのうち13.7%の者に、最終月経(FMP)までにメタボリックシンドロームが新規に発生した。FMPの前6年間と後6年間でのメタボリックシンドローム発生の年間オッズ比は、それぞれ1.45(95%信頼区間[CI]は1.35 - 1.56)と1.24(95%CIは1.18 - 1.30)であった。この増加は、FMPの年齢、人種・民族、施設、結婚状況、教育、喫煙、調査開始時の肥満指数(BMI)、調査開始以降のBMIの変化といったその他のリスク因子とは独立していた。FMP前の時期から後の時期にかけてオッズ比は有意に減少した(P < 0.001)。

メタボリックシンドロームの発現は総エストラジオール量にも総テストステロン量にも関連していなかったが、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)レベルの関数として定義される「生物学的活性テストステロン」の変化に有意に関連していた。記述によれば、SHBGはテストステロンとエストラジオールに結合して標的臓器に運搬する分子だが、テストステロンにより親和性が高い。「生物学的活性テストステロンのレベルが1標準偏差増えるごとに、メタボリックシンドローム発現のオッズが10%増える。」メタボリックシンドローム発生は、SHBGの変化にも有意に連関していた。

メタボリックシンドローム発生の予測に関する
ホルモンおよびホルモン測定値の調整後のオッズ

ホルモンまたはホルモン代替値
OR(95%CI)
テストステロン
0.96(0.86-1.06)
0.40
生物学的活性テストステロン
1.10(1.01-1.20)
0.02
性ホルモン結合グロブリン
0.87(0.81-0.93)
<0.001
エストラジオール
0.97(0.88-1.06)
0.49

「女性のCV疾患のリスクに対してはエストロゲンが直接的な陽性作用を発揮しており、女性が更年期から閉経後の状態に移行してエストロゲンが消失するとそのベネフィットは失われると以前は考えられていた」とJanssen博士らは記している。「しかし今回のデータによれば、エストロゲンレベルの変化は、メタボリックシンドロームリスクの予測因子としては、良くても有意性のない弱いものでしかなかった。」むしろ性ホルモン代謝の中でテストステロン優位性が進むことのほうが、エストロゲンの影響よりも、CVリスクに作用している可能性が高いと著者らは記している。

この説は、Women's Health Initiativeにおいてエストロゲン療法では女性のCVリスクを変化させられなかったことに整合すると、研究グループは述べている。

博士はheartwireに対して、「エストロゲンそれ自体ではない。エストラジオールのレベルでは多くのことが説明できない」と語った。

さらに、メタボリックシンドローム発現のリスクの上昇は閉経前後の時期に速くなる。「その増加速度は、閉経に達する前の時のほうが達した後の時よりも激しいようであり、そのことは我々にとって若干意外であった。」

博士が言うには、今回の分析によってリスクの増加は「テストステロンとエストロゲンのバランスに関連付けられた。(最終月経の頃に)エストロゲンレベルが下がる時には急激に下がることが分かっている。これはもっとも激しい変化のひとつであり、閉経への移行の大きな特徴である。しかし今回の分析では、メタボリックシンドロームおよびその構成項目がエストロゲンレベルに直接関係しているとは示すことができなかった。したがって、状況はもっと複雑であるに違いない。閉経に伴うホルモンの変化全体がきわめてダイナミックな変化であり、その理解はまだ緒についたばかりだ。本調査はパズルの解答の一部である。」

SWANは米国国立衛生研究所から資金を受けている。

出典 1. Janssen I, Powell LH, Crawford S, et al. Menopause and the metabolic syndrome: The study of women's health across the nation. Arch Intern Med 2008;168:1568-1575.



2008.7.29 記事提供 Medscape