飲酒控えめに

重度の飲酒の代償:動脈壁硬化、
男性の高血圧、女性の心肥大

重度の過飲酒と動脈壁硬化および心臓の構造機能との関係を調べた試験で、アルコール消費の影響が男女で違うことが明らかになった。
Michael O'Riordan
Medscape Medical News

【5月16日】(ニューオリンズ)重度の過飲酒と動脈壁硬化および心臓の構造機能との関係を調べた試験で、アルコール消費の影響が男女で違うことが明らかになった[1]。その報告によると、左室重量と中隔壁厚が増加するリスクは女性の方が大きく、動脈壁と心室が硬化するリスクは男性の方が大きい。

「患者を診察すると、高血圧で心臓の構造に何らかの変化をきたすには、10年以上の高血圧の履歴が必要であることが一般的だ」と筆頭著者であるDr Azra Mahmud(セント・ジェームス病院、アイルランド、ダブリン)がheartwireに語った。「大量アルコール消費が実際には損傷の原因とならないのであれば、構造に変化はまったく起こらないはずと考えられていたが、今回のデータ、特に女性のデータには正直驚いた。女性は男性に比べて血圧が高くなったり、動脈壁が硬化することはないのだが、きわめて若い時からすでに心臓が非常に大きく、形態が異常になっている。」

今週の米国高血圧学会(ASH)第23回年次科学会議・展示会においてこのデータを発表した研究グループは、アイルランドのダブリンに居住する男女を対象に重度の飲酒の健康被害効果を調査した。Mahmud博士がheartwireに語ったところによると、これまでのデータでは、アルコール性心筋症のリスクは骨格筋症同様に、生涯アルコール消費量のすべての時点で女性の方が男性よりも大きいことが示されていた。

「ご存知のように、女性は過度に飲酒すると男性よりも肝疾患を起こしやすい」と博士は言う。「女性は男性よりも身体が小さく、肝酵素の量が少ないので、男性ほど大量のアルコールを処理することができない。しかし、男性に比べて、もともと体質的に心臓への直接的損傷をやや受けやすいというエビデンスが、今回の試験も含めて得られている。」

今回の試験では、血圧亢進を評価するために高血圧診療に紹介された未治療被験者200名の連続群を調査した。被験者はその飲酒パターンに応じて、非飲酒者、中等度飲酒者(男性は週にアルコールを1-21単位、女性は週にアルコールを1-14単位)、重度飲酒者(男性は週に21単位超、女性は週に14単位超)に分類した。被験者全員に、組織ドップラー画像撮影を含めた通常の心エコー検査を実施した。動脈壁硬化は脈波伝播速度と、別種の全身性動脈壁硬化の指標である増強指数(augmentation index)で測定した。

結果は、男性ではアルコール消費量と大動脈の収縮期・拡張期血圧、増強指数、脈波電波速度、心拡張機能指数との間に用量反応性の関係が見られた。飲酒が中等度の群であっても、大動脈血圧と増強指数が有意に増加した。しかし今回の試験の女性の所見はこれとは異なっていた。女性では、アルコール消費量は左室の中隔および後壁の厚さと左室重量指数に関係していた。重度飲酒者の女性であっても、飲酒量と動脈壁硬化および血圧亢進との間に相関は見られなかった。

Mahmud博士によると、こうした心臓の拡大は心不全が進行している初期徴候のひとつであるが、今回対象となった重度飲酒者の女性群の平均年齢は42歳であり、そうした段階に至る年齢ではない。平均駆出率は非飲酒者の女性が65%であったのに対し、重度飲酒者の女性は58%であった。

「こうした女性が同じペースで飲酒を続けると、いずれは早死することになる」とMahmud博士は言う。「心臓はだんだんと弱っていき、最後には収縮ができなくなってしまう。」

Mahmud博士によれば、アイルランドの診療現場では、女性が消費するアルコール量の増加が認識されている。飲酒量増加の理由について博士は、赤ワインは心臓を保護するというようなアルコールの便益がメディアにしばしば取り上げられるなどしてアルコールについての情報が錯綜していることと、「ケルトの虎(アイルランドの目覚ましい経済成長のこと)」の結果である可能性を示唆した。アイルランドは経済発展が目覚ましく、それがアルコール消費量の増大につながっている可能性がある。ワインのボトルの栓を抜くのは、たいていの場合そのボトルを飲み干すことを意味するのだが、1日に2杯を超す飲酒には医学的便益はまったくないと博士は言う。

Dr Gerald Berenson(チューレーン大学循環器センター、ルイジアナ州ニューオリンズ)がheartwireに語ったところでは、過度の飲酒の影響が男性と女性とで異なる理由についてはまだよく解っていない。女性は身体が小さいことによる用量効果か、まだ知られていない代謝への影響が考えられる。Berenson博士は、今回の試験の女性被験者に肝酵素の有意な亢進が見られ、そのことから女性の多くがアルコールによる肝炎反応を示していると考えられる点に着目している。特にアルコールによる高血圧の所見が見られる者を治療する方法は、男性であっても女性であっても、「厳しく叱責して」食事と運動の習慣を改善させ、減量、禁煙、禁酒をさせる以外にないとBerenson博士は言う。

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出典
1.Mahmud A, Al-Muntasir I, Feely J. Deleterious effects of high alcohol intake on the heart and blood vessels in hypertension. American Society of Hypertension 2008 Annual Meeting; May 15, 2008; New Orleans, LA.

Heartwire(WebMDの専門ニュースサービス)の全文は、www.theheart.org(心血管領域の医療専門家向けウェブサイト)で閲覧できる。



2008.5.16 記事提供 Medscape