「体を動かす」日常生活を
買い物や掃除も効果



■厚労省がエクササイズガイド■
決まったスポーツに頼らず
生活習慣病を予防するには、毎日、どのくらい体を動かせばいいのだろうか。厚生労働省は1週間ごとに必要な運動量の目安を示した「健康づくりのための運動指針(エクササイズガイド)2006」をまとめた。決まったスポーツに頼らなくても、買い物や掃除、駅まできちんと歩くなど普段から運動を心がければ、立派な予防効果が期待できるとしている。

まず、都内で働くビジネスマンを例に、1週間の運動メニューの組み合わせを紹介しよう。
「自宅から駅まで歩く」(片道20分で往復を5日間)、「昼休みの散歩」(20分を3日間)、「バレーボール」(40分)、「洗車」(40分)、「軽いジョギング」(20分)、「子どもと遊ぶ」(30分)――。
指針は、メニューすべてを実践すれば目標を達成できるとしている。それぞれ内容は細切れでもかまわない。

「生活の中で体を動かす習慣を身に付けて生活習慣病の予防に取り組んでほしい」。こう話すのは指針の作成にかかわった国立健康・栄養研究所の田畑泉・健康増進プログラムリーダー。生活習慣病が国民医療費の3割、死因全体の6割を占めるにもかかわらず、運動習慣のある人は男性で30.9%、女性で25.8%にとどまることから指針ができた。

中高年の人たちに無理なく続けてもらおうと、「生活活動」と「運動」に分けて、生活習慣病に必要な運動量を提案した。田畑リーダーは「これまでの指針だと積極的に運動をやろうと言っていたが、働く社会人には難しい。生活に組み込める指針作りを重視した」と説明する。日々の生活活動も運動の1つとしたのが特徴だ。

「一エクササイズ」という単位で、一定の運動量に相当する活動を、体を動かす内容と必要な時間で示した。例えば、軽いジョギングや階段の上り下りは10分、床掃除や洗車は20分するとそれぞれ一エクササイズになる。1週間23エクササイズ以上が目標で、うち4エクササイズ以上を軽いジョギングなど運動にあてる。

国内外の論文8134本を調べ、84本の論文をもとに基準を決めた。例えば米国の研究では1日1回運動する人は全くしない人に比べて、約2割糖尿病になりにくかったという。23エクササイズは「最低限これだけ運動すれば生活習慣病になるリスクが有意に低減できるという数値だ」(田畑リーダー)という。

最近話題のメタボリック症候群(内臓脂肪症候群)の人向けに、ウエストを細くする目安も盛り込んだ。1センチ縮めるのに必要なエネルギー量は7千キロカロリー。生活習慣病の予防に比べて2−3倍の運動量が必要で、運動の割合を1週間に10エクササイズ以上に増やさなければならない。30分間の早歩きを週5回すると10エクササイズになる。

日常生活で積極的に体を使うことが、がんや糖尿病など生活習慣病を防ぐのに一番いいというのが専門家らの一致した意見。こんな面白いデータもある。

米国で看護師5万人を対象にテレビの視聴時間と糖尿病の発症率との関連性を調べた研究では、体を動かさず家でゴロゴロとテレビを見ている時間が長い人ほど糖尿病の発症率が高かった。1日あたり2時間長いと発症率が23%上がる。肥満についてもほぼ同じ傾向だった。

また別の論文では、やせている人は太っている人より、1日に立ったり歩き回ったりする時間が約2時間半長かった。エネルギー消費量に換算すると1日あたり350キロカロリーで、ごはん2杯分に相当する。

「時間もなく疲れきっている社会人が積極的に運動するのは難しい。立って歩く時間を少しでも長くするだけでも糖尿病などの発症予防に役立つ」と順天堂大学の河盛隆造教授は述べる。 
(合田義孝)


1エクササイズに相当する活発な身体活動

運動
軽い筋力トレーニング:20分  
バレーボール20分
速歩:15分  
ゴルフ:15分
軽いジョギング:10分  
エアロビクス:10分
ランニング:7〜8分  
水泳:7〜8分
生活
歩行:20分
自転車:15分  子供と遊ぶ:15分
階段昇降:10分
重い荷物を運ぶ:7〜8分

(注)生活習慣病を予防する身体活動量として、週に23エクササイズ以上の活発な身体活動(運動・生活活動)を行い、そのうち4エクササイズ以上を運動にする。厚生労働省資料より



2006.8.6 日本経済新聞