閉経境に激減 要注意
動脈硬化や高血圧防ぐ


日本の女性の平均寿命が約85歳に対し男性は79歳。男女差は国によってまちまちだが、先進国では女性の方が長生きする。原因には諸説あるが女性ホルモンの影響が大きいことがわかってきた。

閉経すると女性ホルモンの量が激減し体が著しく変わるので、健康対策でも注意が必要だ。

生活習慣病 「女性の体は女性ホルモンで守られている」。こう力説するのは大阪府立成人病センターの石黒信吾部長。血液中のコレステロールを下げて、動脈硬化や高血圧、肥満を防ぐ働きがあるという。

女性ホルモンの1つであるエストロゲンは、脂肪の代謝に働きかけて悪玉(LDL)コレステロールを減らし、善玉(HDL)コレステロールを増やす。血液中の悪玉コレステロールが増えると、血管壁にこびりついて動脈硬化の原因になる。血管が硬く、内径が細くなってしまうので、高血圧にもつながる。

女性が50歳前後で更年期から閉経を迎えると、女性ホルモンの分泌量は激減する。

男性の場合、体内の女性ホルモンは一生を通じてほぼ一定量を保つが、女性は閉経を境に男性よりも少なくなる。

血中コレステロールの量を年齢ごとに見ると、50歳未満では男性の方が女性よりも高い。それが50歳以降では逆転する。コレステロール値が高いと動脈硬化を招きやすくなり、特に心筋梗塞(こうそく)発症のリスクを高める。

滋賀医科大学の上島弘嗣教授が滋賀県で男女の年齢別の心筋梗塞発症率を調べたところ、年齢を重ねるほど男女の発症率の差は縮まっていた。

「女性ホルモンが多かった50歳以前の『貯金』を使い果たしていく状態」と上島教授は説明する。

若いころは低血圧に悩んでいた女性が、50代、60代以降に急に血圧が高くなることも少なくない。

様々な生活習慣病の元凶といわれる肥満も、50代を過ぎたあたりからいっそう気をつけなければならない。

▼睡眠 更年期以降の女性の多くが抱える悩みの1つに不眠がある。

厚生労働省が2004年に実施した調査によると、「ここ1カ月間睡眠で休養が十分とれたか」という質問に「まったくとれていない」、または「あまりとれていない」と不満を訴えた人の割合が、40代までは男性の方が多いが、50代を過ぎると女性の方が多かった。

男性の場合、睡眠の質は30代からじわりと悪化していく。深い眠りの量は少なくなり、前立腺が肥大していくと夜中に目を覚まして睡眠が分断されるようになる。

一方、女性は閉経によって不眠に耐える力が急激に弱まる。また、女性ホルモンで保たれていたのどの筋肉の張りもたるむ。のどが狭くなっていびきをかきやすくなり、眠りが浅くなるといった睡眠の質の低下もあるようだ。

広島大学の堀忠雄教授によると、睡眠の質は長年かけて少しずつ悪化していく男性の方が実際ははるかに悪いという。65歳を過ぎると男性では深い睡眠が全体の数%にまで減るが、女性だと10%程度までの減少でとどまる。

女性は更年期を境に突然、不眠に敏感になるため、「睡眠の質」に不満をもつようになるようだ。

▼骨の病気 国内に骨粗しょう症の患者は1千万人以上おり、7−8割が女性といわれる。

骨量は男女に関係なく40歳をピークに年をとるとともに減っていくが、もともと女性の方が少ない。さらに、閉経を迎えると骨の新陳代謝のバランスが急に減り、カルシウムが逃げ出し骨が弱くなりやすい。

骨粗しょう症で一番気をつけなければならないのは、骨折だ。

年とともに筋力が弱くなると足を上げないすり足歩きをしがちで、つまずきやすい。もろい骨は転んだ衝撃で簡単に折れてしまう。そうなると動けないのでますます筋肉が低下して、寝たきりから認知症へとつながりかねない。転倒は脳血管の病気に次いで介護が必要な原因となっている。

発症リスクは男女でこんなに違う
◆30−60代の男性の30%以上が肥満症、40代までの女性の肥満症の割合は20%以下
◆心筋梗塞の発症リスクは男性の方が高い
◆くも膜下出血は女性に多い
◆男性の場合に心筋梗塞を引き起こす最大の危険因子は高血圧、女性は喫煙
◆喫煙習慣のある男性はたばこを吸わない男性より心筋梗塞リスクが4倍、喫煙習慣のある女性は吸わない女性より同リスクが8倍
◆糖尿病は男性に多く、予備軍は女性に多い
◆骨粗しょう症は女性の方が男性の3倍
※太田博明著「男と女でこんなに違う生活習慣病」から抜粋


2006.10.29 日本経済新聞