骨のバランス整える
女性に人気、体調改善

体の土台となる骨盤。最近、骨盤を動かす体操が注目を浴びている。普段は意識しにくいが、実は骨盤は体内で最大の関節。周りの筋肉もほぐすことで体調改善を目指すという。

「顔は正面を向いて、足を伸ばして、引き寄せて」――。9月上旬、東京都港区の東急スポーツオアシス青山で開催していたウオーキングの授業風景。芝崎プロポーションクリニック(東京・港)の骨格アドバイザー、谷英子さんの声に合わせ、受講者が背筋を伸ばして歩き始めた。単に美しい歩き方を目指す授業ではなく、骨盤のクセの改善がテーマだ。

参加者はほとんどが女性。川崎市の40代の女性会社員は「姿勢を気にしながら歩くようになりました」と笑顔で話す。

都心の書店では「骨盤体操」テーマにした書籍が売れ筋。若い女性を中心に関心が高まっている。骨盤体操は、骨のわずかなズレを戻し、バランスを補正するという考えに基づいている。「美意識が高く、ダイエットをし尽くした女性が骨盤に興味を持つようだ」と谷さん。

そもそも骨盤の役割とは何なのだろう?東京大学大学院総合文化研究科の渡会公治助教授(スポーツ整形外科)は、「ぼうこう、生殖器、腸を取り囲む器のような骨で、女性の方が幅広い形をしている」と解説する。上半身と下半身をつなぎ、立ったり、歩いたりすることを可能にする役どころだ。

自身も骨盤体操を提唱する渡会助教授。女性は男性に比べて体の筋力は弱いので、「骨盤にストレスを受けがち」と話す。

分娩(ぶんべん)時にホルモンバランスの変化があり、骨盤が広がって出産後に痛みが出ることもあるという。病気というほどではないが、腰痛や生理不順、疲れやすさなど体調不良の一因になることもあるようだ。

多くの若い女性は運動不足で体が硬いうえ、日常生活の無理な姿勢や歩き方で負担がかかることが多い。「女性に多いひざを内側にする歩き方だと腰痛になりやすい」と渡会助教授は指摘する。

ただ、「レントゲンで見てゆがんでいるとわかるほどのずれは交通事故の衝撃やスポーツで無理をした場合」。普段の生活ではミリ単位でずれるだけで、左右対称のカタチが崩れることはそうそうない。

骨盤体操は何種類かが考案され、それぞれ特徴がある。渡会助教授は「座骨歩き」を薦めてくれた。足の付け根近くに出っ張る座骨を動かすもので、平らな床の上に座って足を真っ直ぐに伸ばし、お尻の片側に交互に力を入れて前進するやり方だ。「1日10秒やるだけでもよい」

「骨盤教室」の著書で、Z−MON(ゼモン)治療院(東京・渋谷)主宰の寺門琢己さんが提案するのは、骨盤がスムーズに開閉するよう、骨盤につながる筋肉を動かしたり、刺激を与えたりする体操。詳細は著書に詳しいが、体操の準備運動となる姿勢をイラストに示した。股(こ)関節を柔軟にし、骨盤のバランスを補正しようとする。

一方、「骨盤にきく」の著書があり、気響会整体道場(川崎市)主宰の片山洋次郎さんが薦めるのは、足の筋肉を伸ばし、骨盤を下に引っ張ることで体の緊張をゆるませる体操。夜寝る前と朝起きた時に実践し、快眠とすっきりとした目覚めが目標だ。運動不足で体が硬い人は最初、30度くらいの角度にしか足が上がらないかもしれない。途中で息を止めずに実践することが大切だ。

どれも生理不順や腰痛、不眠症などが軽くなったとの声があるという。若い女性に限らず、男性やお年寄りにも同じやり方が当てはまる。

ただ、骨盤体操と銘打っていなくても結果として骨盤を動かす体操はほかにもある。

「自分が心地いいと思うやり方を見つければいい」と片山さん。無理をせず、運動不足解消の手段として気軽に試すのがよさそうだ。



かんたんにできる例

1.
仰向けに寝て、足の裏を合わせる。
ひざを床から浮かさず1分間

2.
仰向けに寝て、足をM字型に折る。
ひざを床から浮かさず1分間
3.
仰向けに寝て、手は床を押さえる。
足を骨盤の幅に開き、10回振る
4.
両足の指を「グーパー」と同じ速さで開閉する
(注)寺門琢己「骨盤教室」(幻冬舎)より
5.
片ひざを立て、反対側の足をひもで引っ張って持ち上げる
6.
曲げていたひざを伸ばす
7.
ゆっくり戻す。背中全体が温かくなればOK。
右足も同様にする
(注)片山洋次郎著「骨盤にきく」(文芸春秋)より


2005.9.17 日本経済新聞