運動で改善
姿勢正して

腰痛がなかなか治らず、背筋を伸ばした姿勢を続けづらい人は、骨盤が歪(ゆが)んでいるかもしれない。誤った座り方や運動不足が原因で、下半身の痛みや冷え性などをもたらすことにもなりかねない。骨盤の歪みを正し、周辺筋肉を鍛えて、腰の悩みの解消を目指そう。

「腰や太ももに激痛が走り、歩けないほどだった」。都内で食肉販売業を営む武田一男さん(63)は6年前のことを今でも鮮明に覚えている。痛みに耐え切れず整形外科に駆け込み、鎮痛剤を飲んだりコルセットをつけたりしたが、目立った改善は見られなかった。飯田橋内科歯科クリニック(東京・新宿)で診てもらったところ、骨盤の歪みを指摘された。今では痛みもすっかり消えたという。

同クリニックの山田晶副院長によると「武田さんの場合、おそらく上半身を支える土台となる骨盤に歪みが発生、痛みの原因になっていた」。レントゲン写真で骨盤の位置を前後・左右・上下から詳しく観察。どの程度歪んでいるかを確認し、腰骨より少し下の位置にゴムバンドを巻いた。ゴムバンドを巻くと、ずれている骨を補正しやすくなる。

この状態で足を肩幅程度の開いて立ち、腰に手を当て体の中心に軸があるようなつもりで、腰をぐるぐる大きく円を描くように回す運動を実践してもらった。左右30回ずつ、朝晩やるのが標準だ。個人差はあるが、3カ月続けると「骨盤のバランスが補正され、歪みが解消する」(山田副院長)。ゴムバンドは専用品もあるが、ストッキングなどの代用品でも構わない。

なぜ骨盤が歪むのか。日常生活の姿勢との関係が大きい。
例えば、足を組んで座るのも、同じ足の組み方ばかりしていると、骨盤が前後・左右にずれやすくなる。かばんをいつも同じ側で肩から下げたり持ったりするのも歪みの原因だ。正座崩れでお尻を足の間に沈める「アヒル座り」をする女性が増えているが、これも良くない。
骨盤の歪みを直しても、周辺筋肉が衰えていては元も子もない。最も大切な筋肉が、腰の奥にあり、骨盤と背骨、太もものあたりを結んでいる大腰筋だ。高齢者の体力維持運動などを指導する筑波大学の久野譜也・助教授は「大腰筋は骨盤を正常な位置に保つ働きを持つ」と強調する。

大腰筋を鍛えるトレーニング法として、久野助教授が勧めるのが3つの運動だ。「上体起こし運動」は、あおむけの状態で両ひざを曲げて両手を太ももに。その姿勢から上体を起こし手をひざに近づける。「しゃがみ込み運動」はいすの後ろに立ち足を肩幅程度に開く。いすの背に手を添え背筋を伸ばし、ゆっくり腰を下げていく。「足上げ運動」は片方の足をいったん引き上げたうえで後ろに大きく蹴りだす。いずれも1セット10回、週5日やるのが目安だ。

「お尻歩き運動」を加えてもよい。両足を伸ばして座り、手を使わず3−4歩前に進んでまた戻る。1セットは3−5回で基本メニューと一緒にやろう。トレーニングは朝夕2回に分けても構わない。テレビを見ながらでもできる。継続が何よりも大事で、無理しないのがポイント。3カ月続けると「筋肉量が3−4%回復する」(久野教授)。腹筋や背筋も同時に鍛えられ、高齢者の寝たきり防止にも役立つという。

大腰筋は30代から徐々に衰えていく。50代の筋肉量は20代より約30%減、それ以降は毎年、年をとるごとに1%ずつ減るといわれる。石井直方・東京大学教授は「大腰筋をしっかり使わないため、骨盤が前に出て姿勢が悪くなっている若者も少なくない」と指摘する。

石井教授は、20−30代の女性を対象に大腰筋を鍛える実験をした。体脂肪率が低下、ウエストサイズも縮んだ。日ごろあまり意識しない骨盤に着目すれば、意外な効果が期待できるかもしれない。




骨盤の歪みチェック

1.朝、顔を洗う時、腰が痛い

2.座った状態から立ち上がる時、腰が痛い

3.いすに座る時、足を組まないとつらい

4.歩いている時、よくつまずく

5.がにまたで歩いてしまう

6.電車の中でドアに寄りかかって立つ

7.へそが体の中心にない

8.靴の減り方が左右で違う

あてはまる項目が多いと骨盤に歪みがある可能性がある







2005.7.31 日本経済新聞