食材とのバランス大事
がん防ぐ可能性 減塩ラクに

話題のウコン(ターメリック)をはじめ、スパイスの効能に注目が集まっている。がん予防効果を示唆するデータもあり、味の満足感を損なわず減塩できるのも利点。カレーのようにスパイスをバランスよく組み合わせることが、体が喜ぶ献立を組み立てる近道だ。


カレー独特の色を生み出す黄色い香辛料、ウコン。肝臓の働きを助けるとされ栄養補助食品として人気だ。食品効能に詳しい大沢俊彦・名古屋大学教授は「乳がん・皮膚がん・大腸がんや動脈硬化の予防効果を持つ可能性があることがわかってきた」と話す。

カギを握るのが黄色の色素成分でポリフェノールの一種「クルクミン」。大沢教授らは国立がんセンターなどと動物実験で、この物質が体をさびさせる活性酸素とくっついて無害化し、さらに体内で活性酸素ができにくいよう働くことを突き止めた。

「健康食品ブームでスパイスの効能がにわかに注目を集めているが、ウコンをはじめほとんどのスパイスは中国では漢方薬として実績がある」と漢方薬に詳しい丁宗鉄・日本薬科大学教授は指摘する。例えば、クローブは体を温める。ショウガは他のスパイスの口や胃への刺激を和らげる――といった具合だ。

スパイスはもともと発酵や塩漬けと同様、食品を保存する手段の1つだった。これが中国に伝わり、漢方薬として様々な処方が考案された。

日本では奈良の正倉院で薬用とみられるインド原産のコショウの粒が見つかっている。うどんなどの料理に使うようになったのは江戸時代半ば以降。種々のスパイスが広まったのは文明開花後で、数十種類のスパイスが手軽に入るようになったのは、この40−50年のことだ。

歴史が浅い分、まだ誤解されていることは多い。例えば「スパイスはすべて辛い」という思い込み。確かに「香辛料」と書く通り、香りと辛さは重要な要素。だがウコンやパプリカのように着色が主な役割のものもあり、カレーなら一般的に香りが3割強、辛さが2割強、色が4割強という割合だ。丁教授は「様々な楽器からなるオーケストラ演奏のように、スパイスの組み合わせ次第で複雑で豊かな味と香りのハーモニーが織りなされる」と説明する。

効能も単独より高まりそう。丁教授らは30歳前後の女性6人におかゆと市販のルーで作った具なしカレーを食べてもらい体への影響を比べた。カレーを食べると体の深部の温度が上がって冷え症が改善、さらに脳血流量が約5%増え記憶力低下を防ぐ効果が期待できるという。

市販のルーは少なくとも15種類、多いと30種類のスパイスを使っている。インドのカレーは5、6種類のスパイスしか使わないため、丁教授は「日本のカレーは本家と異なる立派な『日本食』。たくさんの生薬と組み合わせて薬効を引き出す『漢方』と重なる」と分析する。

スパイスを使うと塩分を抑えやすいことも、塩分過多に悩む日本人にとってメリットがある。焼き鳥とタンドリーチキンを比べると、塩分は約3分の1で済むという。

各地でスパイスの使いかたを講演するハウス食品の工藤操さんは「まず市販のカレールーにあらかじめミックスされた『ガラムマサラ』など好みのスパイスを加えるところから始めてみて」と勧める。スパイスを加えてからなるべく煮込まないのが本来の香りを楽しむポイントだ。

慣れてきたらルーを使わず数種類のスパイスを組み合わせるインド風のチキンカレーがお勧め。おひたし代わりにインゲンなどを軽くガラムマサラなどでいためるのも一案、食卓がぐっと華やかになる。

ただ、本来は脇役であるはずのスパイスを使いすぎて、主役の肉や野菜の持ち味を殺しては元も子もない。カレーも毎食食べ続けては辛さで胃が荒れるし、油で胸焼けを起こすもと。スパイスの効能を探る大沢教授も「ウコンだけに頼ってはダメ。スパイスや食材をバランスよく食べることが一番」と話している。

主なスバイスの分類と効能
辛み
 
コショウ(食欲増進、抗菌作用)
 唐辛子(食欲増進、発汗促進)
  ショウガ(消化促進、血行・発汗促進)
香り・・・香りづけ、におい消し
  コリアンダー(食欲増進・抗菌作用)
  クローブ(食欲増進、体を温める)
  シナモン(消化促進、発汗促進)
  ナツメグ(消化促進、下痢止め)
  ローリエ(消化促進、鎮痛・鎮静作用)

 
ウコン(肝機能強化、抗酸化作用)
  パプリカ(体を温める)
  サフラン(鎮痛・鎮静作用)

組み合わせ次第でより豊かな味と香りが楽しめる(東京都千代田区のハウス食品)

2005.5.1 日本経済新聞