一昔前はスポーツの最中に水分を摂取することは良くないと考えられていた。「そんなに水分をとるから疲れるのだ」とか「水分のとりすぎで汗をかくのだ」とか言われたものである。

我々もかつて登山の合宿で水制限と称した日があり、朝から一滴の水分もとらずに炎天下の山を歩き続けるトレーニングをさせられた。休憩の時に木の葉の水滴をすすったり、岩場を流れるわずかな流れを軍手にしみ込ませてしゃぶったりして生き延びた。今考えると恐ろしいことである。

1日に出ていく水分の内訳
排尿
1000〜
1500ミリリットル
皮膚しみだし
発汗
350ミリリットル
500〜 700ミリリットル
(時に数リットル)
呼吸
100〜 300ミリリットル
(高山では数リットル)
すん便
100〜200 ミリリットル
(下痢で数リットル)

暑さに対抗するには発汗で気化熱がどれだけ効率よく奪われるかにかかっているし、疲労をまねかないように酸素を運ぶ血流は水分に依存している。さらに、高山病にならないためにも、水分を大量 にとることが重要とされている。

それでは「どのくらい水分をとったら良いか」と質問されたときにハタと困ってしまう。水分は体に入ってくる分(IN)と出て行く分(OUT)の差し引きで考えなければならない。

INは飲んでいる分より食べている分が多い。通常は1日1リットル以上を食事から摂る。炭水化物は分解されて水と二酸化炭素になるので、その代謝水と呼ばれる水分が約300ccある。それらに飲水量 が加わる。

OUTは状況により変動が大きく、多くなる例では、発汗、下痢がある。夏の暑いさなかの運動では、確実に2リットル以上に汗をかく。また、下痢をすると一気に脱水になってしまう。夏の暑い時期に下痢しながら山に行くことがいかに危険なことか理解できよう。ヒマラヤなどの乾燥した高山では、酸素が薄いため呼吸数が増え、多い時は一時間に300ccもの水分を失う。

実際にこうした水分の出入りを計算しながら水分補給をしてゆけば良いが、なかなかそこまでは計算しきれない。簡単には、尿の色が茶色に濃くなれば脱水に近づいていると考え、常に透明な尿であるように心掛けると脱水になりにくい。 (スポーツドクター・医学博士   塩田 純一 )

(2000.10.21日本経済新聞)