抗菌や消化作用

ふろ吹きダイコン、おでんなどダイコンは、他の食材と一緒に煮ることで味を変え、ダシのうまみをたっぷりと吸い取って味が豊かになる。おろして薬味にも使われ、料理のアクセントにもなる。

現代は数え切れないほどの種類の野菜が市場にあふれているが、日本人が最も多く食べている野菜の1つだ。貝原益軒も『養生訓』で野菜の大切さを指摘しているが、中でもダイコンは「菜中の上品也。つねに食ふべし」と、体によいので毎日食べるべきだと強調している。

もともとは古代エジプトで栽培され、日本には弥生時代の昔に中国から朝鮮半島を経て渡来したようだ。古代から日本人の食卓にのっていた野菜である。

昔から薬効の多いことで知られている。まず抗菌作用がある。「大根役者」という言葉があるが、ダイコンで食あたりを起こすことはないことから「当たったことがない役者」を意味する。アブラナ科の野菜で、アリルイソチオシアネートという辛み成分が含まれており、これが抗菌作用を持っている。

また胃腸の働きを促したりたんをきったりする効果があるといわれる。中国では古来やせ薬としても使われ、清王朝の王妃たちが愛用したという。食品によるがんの予防を目指す米国では、特にアブラナ科の野菜が効果的であり積極的に食べるように国民に勧めている。

ダイコンは消化酵素のアミラーゼもたくさん含んでおり、糖質の消化の助けになる。プロテアーゼやリパーゼなどたんぱく質や脂肪を分解する酵素も含む。胃のもたれなどには最適だろう。さらにビタミンCや同B1なども豊富。食物繊維も多く、健康によい野菜の代表といってもよい。

葉も栄養が多い。カロチンやビタミンC、カルシウムなどがたっぷりだ。葉の炊き込みご飯を菜飯という。豆腐に八丁みそをつけて焼いた田楽と一緒に食べる菜飯田楽は江戸時代から東海道の名物である。食材を無駄なく使い健康を守る昔からの知恵を大事にしていきたい。

(国立長寿医療センター疫学研究部長  下方 浩史)

2004.12.19 日本経済新聞