筋力鍛える
静かな動き、高齢者も手軽に

今や経済大国の中国だが、世界に輸出するのはモノだけにあらず。中国武術をルーツとする太極拳の人気も広がっている。静かなダンスのように見えるが、実は筋肉のかなりの部分を使い、筋力アップに効果がある運動。美容にもいいとされ、高齢者や障害者など、体力に自信のない人も取り組めると好評だ。

日本で習える太極拳は様々な流派があるが、中国政府が約50年前に国民体操として制定した「簡化24式太極拳」をベースにしているところが多い。これはたくさんあった動きを第1式から第24式まで簡素化し、一連の運動として実践するもの。

日本健康太極拳協会(東京・中野)の師範、楊慧さんの教室を訪ねた。この日は中高年が多かったが、最近は20−30代女性の受講者も増えているという。「腰の痛みが軽減し、ゴルフができるようになった」(小野打喬さん68)「動悸(どうき)が減り、足が軽い」(70歳の女性)と体への効果が聞かれる。

また「体重が全く変わらず、体を若く保てるように感じる」(岩崎千晶さん44)「いらいらしなくなり、心に余裕ができた」(下田啓子さん、54)と、美容や精神面への利点を指摘する声もある。

やってみた。まるでジャッキー・チェンのカンフーを超スローモーションで再現しているよう。呼吸は複式で、手を上げる・引き寄せる、体を伸ばすときは吸い、逆のときは吐くのが基本。第24式(別図は第2式のやり方)まで通すと、動きはゆっくりでも、筋肉を使っていることが実感でき、1時間半のレッスン後には太ももとふくらはぎに心地よい張りが出た。

九州大学病院の高杉紳一郎講師が中高年女性20人に週1回太極拳をやってもらい、運動能力を測定したところ、脚の筋力やバランス能力、柔軟性が改善された。同講師は「ジョギングでも筋肉の5割は使わないのに、太極拳では8−9割を使う人もあり、驚くべき運動だ」と話す。

高齢者や身体障害者でもできる。特別養護老人ホームや、身障者を集めたクラスでの太極拳講座を開いている竹内彰一さんは「上半身を動かすだけでもいい。みなさん血色が良くなり、表情がにこやかになる」。東京都杉並区の城西病院では今年8月から外来患者を対象に教室を始めた。

ただ、正しい型や呼吸法を習得してこそ効果があるので、自己流は禁物。映像教材もあるが、教室で型を見につけることが上達の早道のようだ。後は自宅で2畳程度のスペースがあれば続けられる。

基本の動き
型と呼吸法、効果引き出す決め手

@背筋を伸ばしひざをやや曲げ腕を胸の高さに
A両手を左回りに回す
B右手は一回転させ上、左手は下で風船抱える形に
C上体を右に回し、重心を右足に移し左足を引き寄せる
D上体を左に回しながら左足をかかとから踏み出す
E重心を左足、左手は前方、右手は腰のわきに下ろす
F左手を伸ばし手のひらは自分に向ける
G重心を右足に戻し左足つま先を上げ左に30度回し、上体も左に回す
H左足に重心移し右足を引き寄せ、両手は近づける
I両手はBと左右の反対の形で右足をかかとから踏み出す
JEFと左右反対の動き
KGと左右反対の動き
L体重を右足に乗せて左足を引き寄せ、両手は近づけBと同じ形に
M上体を左へ回しながら左足をかかとから踏み出す
N重心を左足に移し、左手を前方に伸ばし右手は腰のわきに下ろす
(所要時間は50−60秒)
2004.10.16 日本経済新聞