骨粗しょう症を防ぐため…
食事・運動・日光が大切

骨からカルシウムが溶け出し、中身がすかすかになってしまう骨粗しょう症。もろくなった骨はちょっとした衝撃で折れ、高齢者では寝たきりの原因ともなる。潜在的な患者数は1千万人を超えるといわれるが、弱った骨を元に戻すのは難しい。最近、骨の密度を簡単に測る装置も普及し始め、早期発見に一役買っている。

「えっ私が骨粗しょう症?」――超音波を使った装置で骨密度を測定した主婦、A子さん(66)は絶句した。骨密度は、20歳の健康な女性と比べると61%。骨粗しょう症の疑いが濃厚な数値だ。「週に2度のダンスを欠かさず、健康な体だと思っていた」というA子さんだが「骨年齢は90歳を超えています。至急専門医に相談を」という医師の指摘にがっくり。

一方、夫のB雄さん(72)の骨密度は、同年齢の男性に比べて111%という数字が出た。「健康のために毎日2時間半歩く習慣が役に立った」と満足顔だ。

東京・有明の東京ビッグサイトで8月6日まで開催中の「21世紀夢の技術展」(ゆめテク)の万有製薬のブースでは、10台の骨密度測定装置を使い、無料で測定している。足のくるぶしまでに超音波を当て、波形などをコンピューターが分析して骨の内部の密度を測る。

正常で丈夫ならば、骨の内部は細かな柱が縦横に張り巡らされた網目構造になっている。この柱が失われて骨の中身がすき間だらけになるのが骨粗しょう症。「す」が入ったキュウリや大根のような状態になる。

測定結果は骨の粘り強さを数値で示す。「数値を20歳の平均値と比べた百分率が骨粗しょう症の目安となる」(担当者)。80%以上ならまず心配は無用。そのままの生活を続けて良い。70%台では黄色い信号がともり、食事や運動など生活習慣の見直しを迫られる。70%を下回ったら骨粗しょう症の疑いが濃く、精密な検査が必要だ。

いったんもろくなった骨はなかなか元に戻せないから、こまめなチェックが重要だ。骨がすかすかになってからでは手遅れになる。

加えて骨粗しょう症はA子さんのように自覚症状がない。産業医科大の中村利孝教授は「予防が大切。若いうちから骨の状態に気をつけておく必要がある」と指摘する。最近は大きな病院の整形外科や婦人科などに様々なタイプの骨密度測定装置が備えてあり、手軽にチェックできる。健康診断で骨密度測定を導入する例も増えているという。

では測定結果が「異常あり」だったらどうするか。生活習慣が専門の杏林大学医学部衛生学公衆衛生学教室の武田伸郎医師は予防策として「食事」「運動」「日光」を挙げる。

成人に必要とされる1日のカルシウム摂取量は600ミリグラム。だが日本人の場合、「栄養を気にしている人以外はまずこの値に達していないと考えて良い」(武田医師)という。

特に骨量が激減する閉経後の女性では600ミリグラムでも不足するため、チーズや牛乳、小魚などカルシウムの吸収量 が良い食品を多く食べる必要がある。カルシウムの吸収に不可欠なビタミンDの合成を促進する紫外線を浴びながら、適度な運動をすることも大切だ。

お年寄りの腰が曲がるのは、以前は単なる老化現象と考えられたが、骨粗しょう症で背骨がつぶれてしまった結果 であるとわかってきた。歴史的に乳製品の摂取が少なかった日本人に多いという。老後の生活の質を向上するため、もっと骨に気を配る必要がある。

(2000.7.29日本経済新聞)