wood pyros歯磨液による治療

大阪府歯科保険医協会 岡野吉喜(歯科)〔共同研究者〕井村久史


はじめに
表は、第50回日本口腔衛生学会で発表したWood Pyros歯磨液による5分間の歯磨きマッサージ治療成績である(対象歯をポケット値6ミリ以上191本51人)
Wood Pyros歯磨液には、ノーマル(柿渋25%)と、柿渋の比率の高いストロング(柿渋33%)の2種類がある。ユーザー歯科医師87人の使用状況を比較すると、ストロングの方が人気が高い(1:2)。
殺菌消毒の効果を論ずるのであれば、洗口剤の比率が高いノーマルに軍配があがり、柿渋の効果を論ずるのであれば、柿渋の比率が高いストロングに軍配があるということになる。何故柿渋の比率の高い方に人気があるのだろうか?
新聞や雑誌で作り方を知り、自家製でやってみたら効果があったので製品を送ってほしいという問い合わせがある。自家製の場合は市販のジュースと柿渋を2対1で混ぜるやり方で、殺菌消毒作用がないにもかかわらず効果がある。何故だろうか?

タンニンの効果
第17回保団連医療研究集会で、タンニンによる一次元コラーゲンの三次元化作用により組織修復が促進強化され感染しにくくなること、細菌の消化酵素による上皮組織破壊が分解消化されにくい理由を述べた。卑近な例を挙げれば、タンニン酸で皮をなめした革は鞄や靴、皮のコートに見られるように腐りにくいということで分かる。また、細菌の鞭毛にタンニンが付着し細菌の活動が鈍化することを位相査顕微鏡による動画で供覧した。
(基本的確認事項)
虫歯菌は解糖系で、エサは炭水化物、特に砂糖。歯周菌は非解糖系で、エサは蛋白質。
(key word)
虫歯菌はシュガーコントロール
歯周菌はプロティンコントロール
(キーポイント)
歯肉の炎症、破壊は細菌や多形核白血球の放出する消化酵素による。

歯周病菌のエサは蛋白質
砂糖消費利用の低い貧しい国々の子どもたちは歯を磨かなくとも、虫歯もなくきれいな歯をしている。しかし、40、50代の成人は歯のない人が多い。なぜだろうか。歯を磨かないということにも起因するが、歯周菌のエサが蛋白質であるということに起因する。もし歯周菌のエサが砂糖であったなら、彼らは歯周病にならなかったであろう。

今回PG菌の消化酵素ジンジパインを取り上げ、その為害作用について述べた。蛋白質を分解して口臭を発生させるだけでなく、血液凝固システムを霍乱して出血しやすくすること、補体系システムを攪乱して自然免疫を霍乱すること、免疫システムを攪乱して白血球による捕食を免れたり、白血球の走化性を高め、白血球の放出する消化酵素でかえって宿主の内皮を破壊させてしまう等々の為害作用について述べた。ポケットは消化酵素の溜まり場と大げさな表現を使ったのは、消化酵素の為害作用を強調したいがためである。
(point)
ポケットにあるプロテアーゼはどこから来るのか?
1.歯周病菌から放出
2.生体防御反応にかかわる宿主細胞から放出。

プロテアーゼ(蛋白分解酵素)排除の意義
我々の体もそうであるが、細菌も消化酵素で蛋白質をアミノ酸に分解し分子量を下げなければ菌体内(体内)に取り込めない。柿渋はアミノ基には反応しないが、蛋白質、プロテアーゼ(蛋白質分解酵素)には反応し凝集物を作る。細菌はエサである蛋白質も消化酵素も取り上げられて、栄養を取り込む手段を奪われてしまう。エサを絶たれた細菌はやがて死滅する。

しかし、現実には上皮からポケットに絶え間なく浸出液、血液が流れ込んでいるので、エサを完全に断ち切ることができないため細菌を絶滅することはできないが、菌数を減じたり、歯周病菌や白血球が放出する消化酵素を除去することによって上皮破壊のダメージを減じることができる。

歯肉出血が2、3週間で止まるのも、歯周病菌の放つ消化酵素による血液凝固システム霍乱の排除、コラーゲン三次元化による上皮の強化、白血球の走化性亢進阻止、上皮破壊消化酵素排除によるものと思われる。また、口臭が2週間くらいでなくなるのも、前述の効果と併せて、口中にある蛋白質分解酵素排除による口臭起因物質産生減少によるものと思われる
柿渋の性状:柿渋は、pH3.5、蛋白質、LPS、ペプチド混合物、プロテアーゼと反応して凝集物をつくる。

さいごに

従来、化学的といえば化学療法に視点がシフトし、「柿渋に殺菌消毒効果があるのか?」という質問が多い。殺菌、消毒能力はなくとも、蛋白質、プロテアーゼ、ペプチドを排除すれば歯周疾患は改善することを表のデータは物語っている。開放系である口腔の常在菌(歯周病菌も含む)を殺すために抗菌薬を何度も投与することは得策ではない。

家庭における洗濯は、物理的(機械的)洗濯と石鹸による化学的洗濯により行われている。石鹸は油脂除去を主眼に置き、蛋白質除去には酵素が用いられる。

一方、歯科における清掃は、歯垢の除去が主眼であり、研磨剤による物理的清掃が主流であり、なぜか化学的清掃は忘れられている。歯周疾患においては、ポケットの物理的清掃(歯石、汚染物質除去)だけで、ある程度歯周疾患が改善するのは周知の通りであるが、細菌や宿主から日々放出される蛋白質、プロテアーゼ、ペプチド除去を主眼とした化学的清掃を家庭で毎日行うことは理にかなっており、化学療法を用いなくとも、さらに歯周疾患改善効果があることは言うまでもない。
(参考資料http://www.office-wander.com/woodpyros/)
(保団連医療研究集会発表演題より)

(追記)
Wood pyros歯磨液開発の経緯
小生の1の歯が浮いた。じんじん疼く。ドラッグストアからすべての歯周治療剤を買ってきて試すが疼きがとれない。塩も指もマッサージもレーザーや歯科用薬剤も効果なし。泣きながら、歯周治療学、漢方、民間薬を読みあさり、柿渋に突き当たる。試みると、疼きがとれた。この間、3日間。家内は口臭もし10ミリのポケットを持っていた。それでも4ミリまでに回復した。信じられないことだ。なぜだろう?旧来の殺菌消毒では、治癒機序の説明がつかないため、新しい概念の構築に努めている。
2004.9.5 全国保険医新聞