リウマチ リハビリ
軽度なうちに適度な運動

関節リウマチで病状が進行すると手足を動かすのがつらくなり、悪くすると車いすに頼ったり、寝たきりになったりすることもある。これを防ぐにはリハビリテーション(機能回復訓練)が欠かせない。

国立伊東温泉病院の元院長で福原病院(東京)の橋本明顧問は「きちんとした指導を受ければ、歩けなかった患者も苦痛無く歩行できるようになり、QOL(生活の質)は向上する」とリハビリの大切さを力説する。

――リハビリと言えば脳血管障害の治療後が知られています。関節リウマチではこれと違うことをするのですか。

「関節リウマチの大きな特徴は痛みがあることです。さまざまな調査でも、疼痛(とうつう)を取り除いてほしいという答えが多い。これは薬で抑えることができますが、一方で、関節を侵す炎症はじわじわと進行し、手足を動かしにくい肢体不自由に悩まされることになります」

「脳血管障害のリハビリでは、運動機能の回復に主眼を置き、とにかく頑張って手足を動かし、衰えた筋肉を以前の状態に戻します。ところが関節リウマチでは無理に関節を動かすと炎症が悪化し、肢体不自由がより深刻になります。しかし、放っておくと衰えますので、負荷のかからない運動が必要なのです。

――適度な運動をということですが、どのような方法がありますか。

「私達はプールを使った水中運動訓練を行っています。深さ1.2メートルほどの温水プールの中を手すりにつかまりながらゆっくりと、しかし力いっぱい歩くのです。浮力によって関節にかかる負担が軽減され、無理なくできます。関節を使って運動が可能になり、最も必要な筋力の回復も見込めます。歩行速度などが向上したら、プールを離れて歩行訓練に移ります」

「国立伊東温泉病院で480人の患者を対象にしたデータでは、水中運動訓練をした人の退院時の歩行速度は入院時に比べて平均62%高まっていました。また、日常生活の遂行能力は入院時に健康な人の平均76%であったのが、退院時には同84%まで増加しました。日常生活遂行能力は運動しないままでいると毎年平均2.6%低下しますので、増加したことはかなりの効果があったと判断できます。3カ月の水中運動訓練で3年分の自然減を補ったことになります」

――リハビリはQOL向上が狙いですね。

「手足を元の健康時と同様に動かせるようにするのが目的です。リハビリは経過をみることが必要で、今日は昨日に比べてひざの関節や手首などがどれくらい動かせるようになったか、といったことをきちんと記録します」

「同時に患者にQOLの調査をします。この1カ月を振り返って背中の曲げ伸ばしや歩行能力、手・指の機能の変化、痛み、生活の満足度などを考えてもらい、リハビリの効果をみます。患者のQOLを考えないリハビリはないと言ってもよいでしょう」

――リウマチといえば温泉を想起します。

「温泉そのもので関節リウマチが治るわけではありませんし、温泉と温水プールとでリハビリ効果に差があるというエビデンスはありません。温泉がよいというのは、おそらく環境がよく患者がゆったりした気分になれるという要素があるのかもしれません」

――リハビリで患者が気をつけることはありますか。

「肢体不自由が軽いうちにすることが大切です。また、リハビリのメニューは患者1人ひとりによって異なりますし、効果が判断できるのは患者自身です。家庭でできる体操もありますので、自分ができる運動は専門医と相談しながら積極的に行ってください」
(聞き手は編集委員 中村雅美)

施設数少なく保険の対象外
水中運動訓練の効果を評価する専門医は多いが、プールを備えた医療施設はあまりない。リハビリができるプールを作ったり維持するだけの資金力のある機関は少ないからだ。プール治療が医療保険の対象になっていないこともある。
また、リハビリの中核になる理学療法士や作業療法士が関節リウマチのリハビリの教育を受けることが少ないことも普及を妨げている。生理学的なことも含めて関節の機能を学ぶ仕組みを広めることも必要だ。

2004.5.11 日本経済新聞