高所ほど体脂肪よく減る  登山のシーズンが到来。今夏もきれいな景色と空気を目当てに計画を立てている愛好者が多いことだろう。高所での有酸素運動を続ける登山には、単に気分が爽快になるだけでなく、同じ運動で平地よりもダイエットを増進する効用が分かってきた。高所に住み続けることはできないにしても、日ごろ健康な生活を送るためのきっかけにしてみてはいかがだろう。

「高い山に2日間滞在すると、とくに運動をしなくても体重が1キロ程度減ることが分かったのです」  黒部市民病院(富山県黒部市)の高桜英輔院長は、北アルプス・立山の登山基地、室堂平(標高2450メートル)で、肥満の糖尿病患者を中心に実験を重ねてきた。肥満者、健常者それぞれ10人程度を2泊3日で滞在させ、体重などの変化を見る。その結果 、平地と同じ食事をとり、何も運動をしなくても、肥満者はほぼ全員で体重減少が見られたというのだ。

体重減少の仕組みは以下の通りだ。気圧の低い高所では、血中の酸素濃度が平地より8%低い90%程度に低下するため、体内の細胞が酸素を活発に取り込もうとする。それに伴い、エネルギー消費量 が増え、体脂肪の燃焼が促進される。  高桜院長によると、安静にしていても、室堂平では1日に体重1キロ当たり1.6キロカロリー分を平地にいるよりよけいに消費する。体重が60キロであれば、平地より約8%多い100キロカロリー程度のエネルギーを余分に使うことになる。

登山などで運動した時はさらに効果があがるといえそうだ。平地で散歩程度の軽い運動をすると、エネルギー消費量 は安静時の1.74倍に増えるが、高地ではこれが1.87倍にも跳ね上がった。

プレー時間のかぎられているほかのスポーツと異なり、登山は脂肪を燃やす有酸素運動を長時間にわたって続けるという特徴がある。「平地でジョギングやテニスを何時間も続けるのは難しいが、山では無理なく、脂肪燃焼に最適なレベルの運動ができる」。登山家でもある汐田(うしおだ)ヘルスクリニック(横浜市鶴見区)の塩田純一所長はこう指摘する。

その際、皮下脂肪より内臓脂肪が優先的に分解される傾向にあるため、糖尿病や高脂血症など生活習慣病の改善につながる内臓脂肪型肥満の改善につなげられる。高桜院長の実験では、中性脂肪と内臓脂肪の減少を通 じて、糖尿病患者に対するインシュリンの効き目が上がったことが確認できた。

ただ、登山者でダイエットに成功したとしても、平地に戻れば血中の酸素濃度が元に戻り、エネルギー消費量 は以前と変わらなくなる。要は、こうした経験を通じて、ちょっとした運動がダイエットにつながること、高脂血症など生活習慣病につながる芽を早めに摘んでおくことの大切さを理解し、生活習慣を改善することが重要だ。

もちろん登山の効用を生かすための注意点がいくつかある=表参照。なかでも健康診断を受けて健康状態を把握しておくことは欠かせない。心肺機能に問題がある場合、無理な登山が心筋こうそくを誘発する恐れもある。すぐれたダイエット効果 は登山が激しい運動の裏返しでもある。体調がすぐれない時は高地での滞在にとどめたほうがよい。

登山団体である日本勤労者山岳連盟・女性委員会の藤元理津子さんは、「疾患を抱えている時は無理のない行程を組み、同行者全員に伝えておくことが重要。登山に出かけることを目標に自己管理に励めば、日常生活から健康づくりが促進できる」と話している。

登山のダイエット効果を生かすための7カ条

1.あらかじめ健康診断を受け、疾患がある場合は同行者全員に知らせておく。
2.
体調がすぐれない時は無理に登らず、高地での滞在にとどめる。
3.初心者は高山病に注意し、高さ2000メートル台の山を選んだほうがよい。
4.できれば、1,2週間程度の長期滞在を心掛ける
5.脂肪燃焼に最適な、じわっと汗ばむ程度のペースを守る
6.登山当日の朝食は、おにぎりなどの炭水化物を摂取
7.発汗量にあわせて水分を補給する。とくに登り始めの樹林帯や高湿時の脱水症や熱中症に注意

(2000.7.1日本経済新聞)