更年期障害を和らげる

寒い日が続くと、なべ料理が恋しくなる。今年は豆乳なべの人気が高い。おいしくて、豆乳にだし汁を加えるだけで手軽にできるうえ、体にもいいという。まさに三拍子そろった料理なのだ。

東京都江東区の主婦、小林晴美さん(仮名、38)の最近の定番料理は豆乳なべ。「なべに豆乳を入れて熱するだけで、まず、湯葉が取れる。その後、だし汁を加えて、野菜やキノコ、肉などの具を入れて、出来上がり。家族がそろう週末の夕飯にいい」と話す。

紀文食品が毎年実施している「家庭の鍋料理調査」では、作ってみたい鍋料理の一位は昨年、今年と続けて豆乳なべ。日本炭酸飲料検査協会によると、今年1−8月の豆乳類の生産量は前年同期比36%増えた。

豆乳で作る「手作り豆腐」も、手軽でおいしいと評判だ。小林さんも「豆乳に、にがりを入れて電子レンジでチンすれば、手作り豆腐ができる。子供も面白がってくれるので、よく作ります」と話す。できたては温かく、冷蔵庫で冷やせば冷奴(ひややっこ)にもなる。

イソフラボン威力
豆乳は、ゆでた大豆を丸ごと搾った汁。食物繊維(おから)を取り除くが、「世界的に注目されている大豆イソフラボンや大豆たんぱく質を手軽にとれる健康食品材」(鬼頭誠・京都大学名誉教授)。大豆イソフラボンは大豆のえぐみに含まれ、健康にいいことで知られるポリフェノールの一種だ。

米ミネソタ大のミンディ・カーザー教授は、世界の多くの研究論文を分析した結果、「大豆イソフラボンをとると、女性の更年期に起こる、のぼせやほてりといった更年期障害が和らぐことがほぼ証明された」と断言する。数カ月間にわたって大豆イソフラボンを毎日食べ続けると、「のぼせやほてりが食べる前よりも40−50%減る」という。

女性は閉経に伴って女性ホルモンの分泌量が減る。その結果、のぼせ、ほてり、骨が弱くなるといった症状が現れる。こうした更年期障害を緩和するには従来、女性ホルモンを補う「ホルモン補充療法(HRT)」が有効とされてきた。

ところが、7月、米国で大規模なHRTの臨床試験が突然中止される事態が起きた。「HRTは骨密度を高める効果などはあるが、同時に心筋梗塞(こうそく)や脳卒中、乳ガンなどの発症リスクを高める」というのが理由だった。

心臓病防ぐ効果

米国ではこれを契機に大豆イソフラボンが一躍脚光を浴びた。大豆イソフラボンは女性ホルモンと似た働きをするためだ。

日本では、HRTで補う女性ホルモンの量は米国で一般的に使われる量より少ないため、大きな問題はないと専門家はみる。しかし、身近な食品で更年期を軽くできれば朗報だ。「大豆イソフラボンは副作用もなく、理想的な健康成分」と、東京農業大学の渡辺昌教授も高く評価する。

大豆イソフラボンの摂取目安は1日約50ミリグラム。豆乳なら1日200ミリリットルを飲めばとれる。

一方、大豆たんぱく質はコレステロールや中性脂肪を体外に排出する働きを持つ。心臓病を防ぐ効果があることもわかっている。

大豆たんぱく質の摂取目安量は1日6グラム以上。これも豆乳なら1日200ミリリットルでとれる量だ。米国では約6グラム以上の大豆たんぱく質を含む食品は「心臓病を防ぐ」との表示が認められる。

市販の豆乳は大きく分けて3種類ある。飲用としては、甘みや塩分を加えて飲みやすくした「調整豆乳」や、野菜や果汁、ココアなどの素材を加えた「豆乳飲料」たいい。

豆乳なべや豆腐を作る際は大豆濃度が高く、大豆以外の味を加えていない「無調整豆乳(豆乳)」がお薦め。大豆濃度が8%以上あるため豆乳が固まりやすい。最近は「豆腐が作れる」と表示された豆乳もあり、豆腐を作るのに必要な「にがり」もスーパーに置いている。
ただ、豆乳は雑菌が繁殖しやすいので、開封したら2、3日程度を目安に使い切ろう。
(『日経ヘルス』編集部)

JAS(日本農林規格)による豆乳の分類

無調整豆乳 豆乳から水分を除いた「大豆固形成分」が8%以上。大豆以外は無添加。「豆腐が作れる」などとパッケージに書かれた豆腐作り用は、多くが大豆固形分10〜12%

調整豆乳

調整豆乳 大豆固形成分が6%以上8%未満。糖分や塩分を加えて飲みやすくしてある。牛乳間隔で飲むならこれがいい。1リットルサイズもされている
豆乳飲料 大豆固形分が2%以上6%未満。大豆以外に野菜、果汁、茶、ゴマ、ココアなどの素材が加えられている。ジュースのようにさらっと飲める

手軽で健康にいい豆乳なべ

【豆乳なべの作り方】

(4人分を無調整豆乳で作る場合)
@ 広口の土鍋を用意して豆乳、600mlを入れる。弱めの中火にかけると表面で皮膜ができる。これが湯葉。竹串などで鍋の周りからすくう
A @と別の鍋に水を600mlとコンブを入れておき、ひと煮してコンブを取り出す
B 湯葉を取り終わった@の鍋に、Aのだし汁を注ぐ
C 水菜や白菜、豚肉、キノコなどを入れて煮る。ポン酢などにつけて食べる

【手作り豆乳の作り方】
(200ミリリットルの無調整豆乳で作る場合)
@ 器に豆乳を注ぎ、にがり10−20mlを加える。ゆっくり10回ほどかき混ぜたら、ラップをして電子レンジに
A 500w、600wの電子レンジなら1、2分加熱
2003.11.22 日本経済新聞