心臓病や脳卒中防ぐ
ストレスを緩和

サンマがおいしい季節。今年は豊漁でサイズも大ぶり。よく脂ののったものが手頃な値段で手に入る。サンマにはドコサヘキサエン酸(DHA)に代表される魚油が多く含まれており、心臓病や脳卒中を防ぎ、ストレスを緩和する作用があることもわかってきた。

胴が丸々と太ったサンマを焼くと、香ばしいにおいが広がり、脂がジュウとしたたり落ちる――。サンマがおいしいのは脂(脂肪)がたっぷりのっているからだ。

DHA含む魚油
一般に、食事に含まれる脂肪は「高カロリー」「肥満の元」などと、健康に良くないイメージが強い。ところが、こと魚に関しては話が逆だ。「脂がのった旬のものほど、健康にいい」と、食品総合研究所(茨城県つくば市)で魚の健康効果を研究する鈴木平光・機能生理研究室長は話す。

そもそも魚の効用に注目が集まったのは、魚を主食とするイヌイット(アラスカなどの先住民)に、脳血栓(けっせん)や心筋梗塞といった病気が非常に少ないとわかったことがきっかけ。

こうした病気は通常、脂肪のとり過ぎが原因だが、イヌイットは脂がのった魚をたくさん食べているのにこうした病気になりにくい。そこから、「魚の脂はむしろ体に良いのでは」と関心が高まり、多くの研究が進められてきた。

サンマなどの魚油はDHAのほか、エイコサペンタエン酸(EPA)などを多く含む。こうした魚油は、サラダ油のような植物性油や、バターやラードといった動物性油とは脂肪の種類が異なる。

血液サラサラに
DHAやEPAはまとめてn−3系脂肪酸と呼ばれる。研究の結果、n−3系を摂取すると、血液中の脂肪(中性脂肪)が減ることがわかった。普通、バターやサラダ油といったn−3系をほとんど含まない脂を摂取すると、中性脂肪は増えこそすれ、減ることはない。

n−3系脂肪をとると血小板の凝集を防いで、血液をサラサラにすることも分かっている。中性脂肪を減らす効果と合わせて、脳血栓や心筋こうそくを防ぐと考えられている。

n−3系は脳にもいい働きをする。DHAは、口から摂取すると脳に到達して、神経の働きを円滑にすると考えられている。

富山医科薬科大学の浜崎智仁教授は、試験前の学生を対象に実験した。41人を2群に分け、1方だけがDHA入りのカプセルを3ヵ月間摂取。摂取の前と後に心理テストをしたところ、通常は試験直前に高まる「敵意性(イライラ度)スコア」が、DHAを飲んだ学生では低下していた。DHAをとった学生の方が、ストレスがかかった状態でも平常心を保っていたといえる。

「魚をよく食べる国では、うつ病患者や自殺者が少ないことがわかっている」(浜崎教授)。また、DHAは胎児の脳の発育にも役立つという。妊婦のときにDHAを多く取ると、生まれた子供の知能指数(IQ)が高いという研究がある。「妊娠している人は、意識して魚油をたくさんとってほしい」と浜崎教授は話す。

n−3系脂肪は、アトピー性皮膚炎や花粉症といったアレルギー症状を緩和する作用も期待されている。
サラダ油などが多く含むのはn−6系脂肪酸。n−3系は体内の炎症反応を抑え、n−6系は強めるという相反する働きをする。

どちらも体の機能を保つのに必要な成分だが、現代人の食生活はn−6系を多くとりがちで、それがアレルギー性の病気が増える一因とも考えられている。「n−3系とn−6系のバランスを取り戻すには、魚をもっと食べ、サラダ油などのn−6系を控えたい」と浜崎教授は指摘する。

必要量1日1尾
1日に必要とされるn−3系脂肪量は1−2グラム。旬のサンマなら、1日に1尾食べるといい。ほかの魚では、サバやブリは切り身1切れ(100グラム程度)、マグロのトロの刺し身なら4切れ(40グラム程度)だ。脂がのった魚を1日1品食べればカバーできるわけだ。

サンマを焼いて脂が落ちても、十分な量が残るので気にしなくていいという。加熱には比較的強いが、古くなるといやににおいを発して健康効果も少しずつ落ちる。新鮮なうちに食べたい。「魚を冷凍しても、n−3系脂肪は変質しない」(鈴木室長)ので、冷凍物でも大丈夫だ。

魚が苦手なら、DHAやEPAを含む魚油のサプリメントが市販されているので、それをりようしてみよう。(『日経ヘルス』編集部)
2003.10.11 日本経済新聞